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328話 折衷案

 ソフラさん達はドラゴン……アルサムさんを追い払いたい。

 アルサムさんは、元住処を取り戻したい。


 片方の要望を叶えると、もう片方の要望が通らなくなる。

 間を持つ身としては、なかなか頭の痛い話だ。


「うーん、どうすればいいんだろう?」


 ひとまず、アルサムさんの相手はアリスとサナに任せて……

 残りのメンバーで対策を話し合っていた。


「もうめんどくさいから、サクッと討伐しない?」

「却下」


 レティシアはいつも過激だった。


 でも、これは魔人化した影響じゃなくて、元々の性格のような気がする。

 子供の頃から、なにかあれば突撃していたからなあ。


「他の住処を用意してさしあげるというのは、いかがでしょう?」

「うん、悪くないと思う。ただ……」


 アルサムさんが気に入るような住処を用意できるか、そこが問題だ。

 広い洞窟を希望しているのだとしたら、なかなか難しい。

 そういう洞窟なんて、都合よく転がっているものじゃないからね。


「逆転の発想で、村人達に引っ越してもらうのはどうかな?」

「シルファ……それは、ちょっと」


 せっかく安住の地を見つけたのに、追い出すなんてことはできない。


 元はアルサムさんの住処なんですよ、と伝えたとしても納得はしてくれないだろう。

 十年以上放置するなんて、人の感覚だとありえないからね。


「えっと、えっと……仲良くなって一緒に住んでもらう、というのはどうでしょうか?」

「お嬢様、さすがにそれは厳しいかと」

「え? だ、ダメなんですか……?」

「人間とドラゴンでは、色々と生態が異なります。そしてなによりも、サイズが違います」

「そ、そうですね……サナさんを見ていたものだから、つい」


 ナインに否定されていたけど……

 アンジュの案は良いように思えた。


 前提として、アルサムさんがサナのように人間に変身しなければいけないけど……

 それが可能なら、一緒に暮らすという点だけを見るなら大きな問題はない。


 まあ、アルサムさんがそれを受け入れるかどうか、というのも問題なのだけど。

 見た感じ、プライドが高そうなドラゴンなので……

 人間と一緒に暮らすということに抵抗を覚えてしまうかもしれない。


「でも……アンジュの案は、わりとアリかも」

「本当ですか!?」


 自分の案が採用されるかもしれないと、アンジュは目をキラキラと輝かせた。


「しかし、人間とドラゴンが共存するなど、本当に可能なのでしょうか?」


 ナインの懸念はもっともだけど……


「それなら実例があるよ」

「え?」

「俺達とサナが良い例になるんじゃないかな?」

「……あ……」


 そのことをすっかり忘れていた、という感じでナインは小さな声をこぼした。


 俺達は人間で、サナはドラゴン。

 サナの普段の言動が、まあ……アレなので、ちょっと意識しづらいのだけど……


 あれでも、れっきとしたドラゴンだ。

 しかも、最上位と言われているエンシェントドラゴン。


 俺達はそんなサナと一緒に旅をして、けっこう長い時間を一緒に過ごしている。

 色々なトラブルに遭遇したものの、彼女が問題になったことは一度もない。

 問題を引き起こしたこともない。


 多少、価値観が違うだけで……

 その辺りを上手くすり合わせれば、共存は十分に可能な気がした。


「夢見物語ね」


 話がまとまりかけたところで、レティシアが反論した。


「人間とドラゴンの共存? そんなのありえるわけないじゃない」

「そんなことはないよ」

「あるわ。だって、人間は同じ人間同士で争っているのよ? それなのに、異種族のドラゴンを受け入れられると思うの?」

「それは……」

「無理。絶対無理よ。どこかで歪みが生じて、争いになるに決まっている。それがオチね」

「む」


 得意そうに語るレティシアだけど、それは最悪の中の最悪のパターンだ。

 そうなる可能性はゼロとは言えないけど、限りなく低いと考えている。


 魔人化して性格が歪んでいるから、思考もネガティブなのかな?

 それとも、地なのかな?


「レティシアは性格が悪いね」

「ちょっ」


 いきなりシルファがそんなことを言う。


「ハルが言ってるみたいに、なにもしていないうちから決めつけるのはよくないかな」

「決めつけていないわ。予想よ」

「なら、断定はできないはず」

「できるわ。曇った空を見て雨が降る、っていうくらい簡単な予想だもの」

「雪が降るかもしれないよ?」

「こんなところで雪なんて降らないわよ。もっと北に行かないと」

「シルファ、寒いのは嫌い」


 話がどんどん逸れていく……


 でも、シルファの言いたいこと、想いはしっかりと感じ取った。


「レティシア」

「なによ?」

「俺は、ソフラさんとアルサムさんに共存を提案してみるよ。今は、それが一番だと思う」

「……好きにしたら」


 これ以上、反論するつもりはないらしく、レティシアは口を閉じた。

 その顔は不満そうだけど……


 でも、ひとまずは俺達に任せてくれるみたいだ。


 レティシアの自制心が養われてきたのか。

 それとも、魔法によるおしおきが怖いのか。


「……前者であればいいな」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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