327話 襲撃の理由
「でも、どうして村を襲っていたんですか?」
話をしてみると、アルサムさんは悪い人じゃなさそうだ。
いや、竜?
とにかく。
アルサムさんが意味もなく村を襲うとは思えない。
悪意を持って、ソフラさん達を苦しめるとは思えない。
なにか理由があるのではないかと思い、サナの件は一度後回しにして、そう尋ねてみた。
「襲うもなにも、あそこは元々俺のものだ」
「え? どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ。あの洞窟は俺の住処で、そこに人間が勝手に住みついたのだ。故に、俺は家に帰ろうとしただけにすぎない」
「ふむ?」
嘘を吐いている様子はない。
そういう下手な小細工をするような人……
いや、竜……
……もう紛らわしいから人でいいや。
とにかく、そういう人には見えない。
知り合ったばかりだけど、悪意は感じない。
そんな人がこんな嘘を吐くとは思えなかった。
でも、あの洞窟にはきちんと村があって、ソフラさん達が住んでいる。
ドラゴンの住処ということは考えづらい。
俺達の間で話がズレているのか……
あるいは、認識がズレているのか。
もう少し詳しい話をしてみよう。
「あの洞窟は、本当にアルサムさんの家なんですか?」
「ああ、間違いない。場所をしっかりと覚えているし、なによりも、広さもちょうどく快適だったからな。そういうところは、しっかりと覚えているものだ」
「確かに」
「俺のお気に入りの住処だった。それなのに、ちょっと空けた隙に人間が入り込み、勝手に村を作り……許せぬ。追い払うのは当然というものだろう?」
「それは、まあ……」
「俺も、鬼や悪魔ではない。殺さず、少し脅して追い払おうとしているだけだ」
なるほど、手加減をしていたのか。
でも、考えれば当たり前の話だ。
いくら嵐の結界があったとしても、ドラゴンの攻撃を完全に防げるとは思えない。
アルサムさんが良識のあるドラゴンだから、無益な殺しはしないで、追い払うだけにしようとしたのだろう。
そんなアルサムさんなのだから、やはり嘘を吐くとは思えない。
「うーん」
アルサムさんの話に信憑性が出てきたのだけど……
でも、この食い違いはどういうことだろう?
「ちょっといいかしら?」
隣で話を聞いていたアリスが挙手した。
「どうしたの、アリス?」
「少し気になったのだけど……」
「なんだ、人間の女よ」
「今、ちょっと家を空けた、って言ったわよね? それって、どれくらいの期間なの?」
「ふむ、そうだな……十年くらいだろうか?」
「……え?」
一瞬、思考停止してしまう。
今、十年って言った……?
「詳細な月日までは覚えてないが、十年くらいだろうな」
「えっと……つまり、アルサムさんは、十年の間、家を空けていたと?」
「うむ」
「それで、ものすごく久しぶりに家に帰ったら、人が村を作っていたと?」
「うむ」
「あー……」
アリスがこめかみの辺りに手をやり、頭が痛い、というような顔をした。
他のみんなも同じような顔をしていて……
たぶん、俺も似たような顔をしていると思う。
「人間達よ、その反応はなんだ?」
「あのね……」
「うむ」
「十年も離れていれば、他の誰かが住みついてもおかしくないから!!!」
たぶん、みんなが今叫びたいことを代弁しておいた。
「なんだと? たったの十年だぞ?」
「十年も、ですよ!」
「信じられぬ……」
どうも話が噛み合わない。
困っていると、サナがフォローしてくれる。
「あー……師匠」
「どうしたの?」
「師匠も知ってる通り、自分達ドラゴンは長生きなんで、時間の感覚がおかしいっすよ。幼竜ならともかく、数千年も生きているドラゴンとなると十年なんて……」
「ほんの少しとしか思えない?」
「そういうことっす」
なんていうすれ違い。
思わず頭を抱えてしまいそうになった。
これ、どうやって解決すればいいのかな?




