322話 同じ種族だからこその共感
珍しい、と思ってしまった。
今までサナは俺のすることになんでも賛成してくれて、反対することはなくて……
もう少しわがままを言ってくれてもいいと思っていたんだけど。
でもまさか、このタイミングで反対されるなんて。
「サナはどうして反対なの?」
「……」
「俺はサナの意思を無視するつもりはないよ。無理に参加させるつもりはないし……そもそも、討伐自体が反対ならやめる」
「ちょっと、ハル。それは……」
「うん、村の人達を……ソフラさんを騙すことになっちゃうね」
できるなら、そんなことはしたくない。
討伐を諦めるのだとしても、ドラゴンを追い払うとか村に近づけないようにするとか、色々なことは試してみたい。
ただ……
最悪、約束を放棄することも考えないといけない。
そんなことをしたらいけない。
いけないのだけど……
でも、サナの意思を無視したくない。
サナがここまで言うなんて、きっと、よっぽどのことだろう。
それを無視して事を進めたら、彼女の心を傷つけてしまう。
それに、信頼関係も失ってしまうような気がした。
「だから、まずはサナの意思を最優先にしたい」
「……師匠……」
「その上で、できるなら、みんなが納得できるような最善をつかみ取りたいんだけど……まあ、それはちょっと欲張りかな? あはは」
アリス達は納得してくれたみたいだ。
それはそれでハルらしい、と。
苦笑しつつ、反論は口にしない。
うん。
ありがとう、という言葉しかない。
そして、サナは……
「うえええぇ……どぼじで師匠はぞんなにやざじいっずがぁ……?」
だばーっと滝のような涙を流して、抱きついてきた。
その勢いに押されて、一緒に転んでしまう。
気にすることなく、サナの頭を撫でた。
「優しいかな?」
「優しいっすよ。今言ったことをしたら、ひどい目に遭うかもしれないのに、それなのに自分を最優先するなんて……うぇ」
「サナにはいつも助けられているし……それに」
「それに?」
「サナは笑顔の方が似合うから」
「……」
サナがぽかんと目を丸くして、
「……うぅ」
顔を赤くして、なぜか目を逸らしてしまう。
あれ?
予想外の反応。
どうしたんだろう?
「アリスさん、あれは……」
「ええ……ハルってば、またやったわね」
なぜか、クラウディアとアリスがジト目に。
「えっと……とりあえず、どうして討伐に反対なのか、その辺りを説明してくれないかな? それすらも話したくないっていうのなら、仕方ないけど」
「いえ、そこまでわがままを言うつもりはないっす」
一緒に立ち上がり、サナを中心に円を作るように座る。
「反対する理由は単純っす。自分はドラゴンで、相手もドラゴンで……」
「同族だから討伐は避けたい?」
「はいっす」
なるほど。
納得の理由だけど……
ただ、正直なところを言うと、人間である俺にはちょっとよくわからないところもある。
悪い人もいれば良い人もいる。
なにか事件が起きているのなら、悪い人を捕まえることにためらいはない。
極悪な事件を起こしたのだとしたら、討伐という手段を取ることも、ともすれば迷うことはないだろう。
しかし、サナはそれはできないようだ。
「……ドラゴンは、一人ぼっちで生まれてくるっす」
ふと、サナが語り始めた。
「卵を生んで、でも、すぐに生まれることはないっす。孵化まで数年、かかるっす」
「え、そんなに?」
「ドラゴンは幼体でも、めっちゃ強いっす。外敵に襲われても平気なように、卵の中でじっくりことこと成長するっす」
なんかシチューみたいな例えだ。
「数年かけて孵化するっすけど……その時、もう親はいないっす」
「え? どうして?」
「数年も待ってられないっす。基本、ドラゴンは卵を生んだら、後は放置っす。どこかに行くっす」
「それはまた……」
人間からしたら想像できない環境だ。
いや、人間だけじゃない。
動物や魚とかも、例外がない限りは育児をするものだ。
それをすることなく、最初から放置するなんて……
「それでも問題ないのは、ドラゴンが頑丈だからっす。最強だからっす」
「最強の生物だから、他者に害されることはほとんどない。だから守らないで、放置するようになった……?」
「たぶん、そんな感じっす」
だとしたら、それはとても寂しい話のような気がした。




