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319話 嵐の守護

 村のために嵐を発生させている?


 ソフラさんの言葉をそのまま受け止めるのなら、そういう意味になるのだけど……

 いったい、どういうことだろう?


 もう少し詳しい話を聞く必要があると思い、さらに踏み込んでみる。


「村のため、ということは、嵐を発生させることで利益が生まれる、っていうことですよね?」

「利益とは少し違うが、まあ、そうさね」

「それは、どんなものなんですか?」

「敵から村を守るためさ」


 敵?

 抽象的な言葉に首を傾げて、アリスと顔を見合わせる。


 敵と聞いてまず思い浮かべるのが、魔物だ。

 嵐を発生させることで魔物を遠ざける……とか?


 でも、こうして俺達が洞窟に入ることができたのだから、魔物も洞窟に入ることができるだろう。

 嵐だとしたら、避難するためにやってくるかもしれず、余計に悪化するかもしれない。


 同じような理由で、盗賊も除外。

 ソフラさんの言う『敵』とは、いったいなんだろう?


 こちらの疑問を察した様子で、ソフラさんはやや表情を険しくしつつ、言葉を続ける。


「敵というのは、魔物のことさ」

「魔物……ですか?」

「もちろん、ただの魔物じゃない。恐ろしい恐ろしい魔物……ドラゴンさね」


 ソフラさん曰く……


 洞窟の中にあるという奇妙な村だけど、それなりに平穏に過ごしていたらしい。

 しかし、一ヶ月前に異変が起きた。


 どこからともなくドラゴンがやってきて、村を壊そうとしたのだという。


 村人達は必死に応戦して……

 その努力が実ったのか、はたまた気まぐれか、ドラゴンは立ち去ったという。


 しかし、襲撃を諦めた様子はない。

 その後も、洞窟近くに姿を見せるなど、ドラゴンは再蹴撃のチャンスを伺っていたという。


 一回、ドラゴンを追い返すことができたのは奇跡に等しい。

 同じことをもう一度やれと言われても無理だ。

 村人達は傷ついているし、武器も全て壊れた。


 村を捨てるか?

 あるいはドラゴンの餌となるか?


 村人達は頭を悩ませて……

 そんな時、旅をしている聖女が村を訪れたという。


 聖女は村の現状を知ると力を貸してくれた。

 彼女は色々な情報を集めて、ドラゴンは雨を嫌うことを突き止めた。

 なので、嵐を発生させる結界を張り、ドラゴンを遠ざけることにした。


「……というわけさ」

「そんなことが」


 ドラゴンというのも驚きだけど、聖女が村を訪れていたなんて。


 もしかしたら、アンジュの知り合いかもしれない。

 会ってみたいと思うのだけど、すでに立ち去った後らしい。


「たまに、あんた達みたいに結界の範囲内に迷い込んでしまう人がいてね。申しわけないから、できる限りのおもてなしをさせてもらうのさ」


 初対面なのに親切にしてくれたのは、そういう理由があったようだ。


「嵐はずっと続いているんですか?」

「いや。夜は収まるようになっているさね。一日中、嵐になっていたら大変なことになるし、ドラゴンは夜は活動しないみたいだからね」

「なるほど」


 その話を信じるのなら、俺達は夜になるまで待てばいい。

 嵐が収まり、ドラゴンも寝る。

 問題なくこの場を去ることができる。


 できるのだけど……


「ハル」

「うわっ」


 考え込んでいると、アリスに背中を叩かれた。

 軽くなので痛くはないけど、突然のことに驚いてしまう。


「あ、アリス……?」

「助けたいんでしょ? このまま立ち去りたくなんてないんでしょ?」

「どうして……」

「どれだけ一緒にいたと思っているの? ハルの考えていることなんて、全部、お見通しよ」

「……叶わないなあ」

「ハルのしたいようにして。あたしも、アンジュもクラウディアも……サナもシルファも、文句は言わないと思うわ。まあ、そこの勇者は知らないけど」

「なによ」

「だから、ハルは、ハルのしたいようにして。今は、なにをしてもいいんだから」

「……そっか」


 どんなことも自由に挑むことができる。

 しかし、その責任はきっちりと負わないといけない。


 それが、この世界で生きるということなのだろう。

 そのことを、改めてアリスに教えられたような気がした。


「じゃあ……今回も、わがままを言っていいかな?」

「もちろん」


 その答えを待っていたというように、アリスがにっこりと笑った。


「……」


 そんな俺達を見て、レティシアが微妙な表情に。

 不機嫌そうな、羨んでいるような、嫉妬しているような……

 そういう複雑な顔をしていた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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