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318話 隠された村

 魔道具の明かりに照らされて、いくつもの家が建ち並んでいた。


 基本的に、洞窟の壁に沿うようにして家が建てられている。

 洞窟の壁を利用することで、強度を高め、同時に工期の手間を省いているのだろう。

 わりと合理的な家だ。


 とはいえ、陽の光が届かない洞窟に村を作るなんて発想、普通はないんだけど……


「おや?」


 村人がこちらに気づいた。

 白髪混じりの高齢の女性だ。


 旅人を魔物への生贄にしようとする村もある。

 思わず身構えてしまうのだけど……


「見かけない顔だね。あんた達は旅人かい?」


 俺の反応を気にすることなく、村人は、そうやって呑気に話しかけてきた。


「あ、はい」

「そうかい、そうかい。こんな辺鄙なところまでよくやってきたねえ。どれ、お茶でも飲んでいくかい?」

「いえ、そんな……」

「なに、遠慮することないよ。ほれ、こっちさ」


 こちらの話を聞かず、村人はスタスタと歩き始めてしまう。

 俺達がついてこないことに気づくと立ち止まり、手招きをする。


「ハル、どうするの?」

「……せっかくだから、ごちそうになろうか」

「なによ、悪人だったらどうするわけ?」

「そういう感じには見えないし……それに、この嵐の情報が手に入るかもしれない」

「それもそうね。じゃあ、行きましょうか」

「ちょっと。なんで私の意見は無視するの?」


 だって、レティシアだから。


「ほら、なにぼーっとしているんだい?」

「あ、はい」


 村人に促されて家の中へ。


「おぉ」


 家の半分くらいが洞窟の岩に接していて、壁の代わりとして利用されていた。

 凹凸部分を棚として使っていて、小物が置かれている。


 今まで見たことのない家に、ついつい声をこぼしてしまう。


「珍しいかい?」

「あ、はい。すみません、じろじろ見て」

「いいさね。外の人にとっては、こんな村、珍しいだろうからね」


 村人は笑いつつ、お茶の用意をしてくれた。

 俺達は席に座り、熱いお茶を飲む。


 いつも飲んでいるものと違い、不思議な風味があるお茶だ。

 でも、体がぽかぽかしておいしい。


「どうだい?」

「おいしいです」

「そうかい、それはよかった」

「あ、俺はハルっていいます。それで、アリスとレティシア」


 自己紹介を忘れていたことを思い出して、そう名乗る。


「丁寧にありがとね。私は、ソフラっていう、ただの村人さ」

「ソフラさんですか」

「あーもうっ、じれったいわね!」


 のんびりと会話をしていると、レティシアが苛立たしげに声を荒げた。

 ソフラさんを睨みつつ、強い調子で言う。


「いい、私達はここに観光に来たわけじゃないの! ここに……」

「嵐の原因があるかもしれないから調べに来た、っていうところかね?」

「……気づいていたの?」


 レティシアは声を小さくした。

 代わりに警戒心を高くして、さきほどよりも鋭い目でソフラさんを睨みつける。


「まあ、そういう理由でもないと、こんなところにやってくる人はいないからねえ。たまに雨宿りなんかで洞窟に入る人はいるが、奥までやってくることはほぼないさね」

「ふーん、話が早いわね。なら、単刀直入に聞かせてもらうわ。この嵐、あんたが、あるいはこの村が引き起こしているの?」

「そうさね。答えは、イエスになるね」


 あっさりと認められてしまう。

 あまりにもあっさりとしているものだから、問い詰めていたレティシアも目を丸くして驚いていた。


 ただ、すぐに気持ちを切り替えた様子で、キッと強い視線を飛ばす。


「なら、話が早いわ。今すぐに嵐を解除しなさい。あの嵐のせいで、私達は足止めを食らっているの。とんでもない迷惑だわ」

「それはすまないねえ……でも、嵐を解除するわけにはいかないのさ」

「どうしてよ?」


 ソフラさんは、どんな答えを返してくるのか?


 レティシアほど好戦的ではないけれど……

 でも、答えの内容によっては、敵対が決定するかもしれない。


 自然と緊張して、ごくりとつばを飲む。

 アリスも表情を険しくして、いつでも動けるように構えつつ、成り行きを見守る。


 そして……


「この村のためさ」


 そんな答えが返ってきた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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