317話 さっそく使いました
「うわっ」
馬車の外に出ると、叩きつけるような勢いで雨が飛んできた。
風も強く、飛ばされてしまうのではないか? と不安になるほどだ。
「すごい嵐ね。ハル、大丈夫?」
「うん、なんとか。それにしても、こんな嵐に遭遇するなんて、運がないというか……」
「……ふんっ」
ずっと沈黙を貫いていたレティシアが、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「ハルもアリスも、その頭は飾りなの?」
「なにが言いたいの?」
にらみ合い、バチバチと火花を散らす二人。
いきなりケンカモードなのだけど、落ち着いてほしい。
「さっき、自分で言っていたでしょう? この嵐は普通の嵐じゃないわ」
「それは……」
「ハルならわかるでしょ?」
「え?」
いきなり話を振られ、驚いてしまう。
でも、ここでわからないと答えたら、レティシアの機嫌をさらに損ねてしまいそうだ。
せっかく、彼女の方から歩み寄ってきてくれている。
少しでも話を広げていきたい。
「えっと……」
少し考えて……
感じて……
答えにたどり着いた。
「ものすごく巧妙に隠されているけど、魔力を感じるね」
「え、そうなの?」
アリスは気づかなかったらしく、驚いた顔をした。
「つまり、この嵐は人為的なもの?」
「正解」
どのような方法か、それはわからないのだけど……
誰かが嵐を人為的に引き起こしている。
それは、ほぼほぼ確定だろう。
「ハル、あんた、探知しなさい」
「探知?」
「この嵐を引き起こしているやつを探すのよ。そういうの、得意でしょ? で、殺すの。そうすれば嵐は収まるわ」
「探すのは賛成だけど、いきなり殺すのはダメ」
「なんでよ? それが一番確実な方法じゃない」
「それでも、ダメ」
嵐を引き起こしている=悪人、と決まったわけじゃない。
もしかしたら、大事な意味があるのかもしれない。
それを確認せず、いきなり術者を殺害なんて方法はとれない。
「なによ。私は面倒なことは嫌いよ。ハルがやらないなら、私が術者を殺すわ」
「だから……」
「止めたって無駄よ。私は、私の好きなようにやらせてあだだだだだ!?」
拘束魔法を発動して、おしおきをした。
「今のレティシアは捕虜みたいなものだから、勝手をしたらダメだよ」
「うぐぐ……こ、この私にこんなことをして、タダで済むとあいたたたたた!?」
「ダメだからね?」
「……わかったわよ」
ようやくおとなしくなってくれた。
拘束魔法を解除する。
「……ハルって、動物の調教師とかになれそうね」
「え? なんで?」
「なんででしょうね……」
なぜか、アリスが遠い目をしていた。
「とにかく、魔力の流れを見てみるから、術者を探してみよう。二人は俺についてきて」
アリスとレティシアが頷いたのを確認した後、歩き始める。
目を凝らすようにして集中しつつ、魔力の流れを探る。
すると、レティシアの言う通り、魔力を感じた。
どこからか流れてくる魔力が空に繋がっていて、それが嵐を引き起こしているみたいだ。
その出発点を探知。
嵐のせいで集中できなくて、難航してしまうのだけど、それでも少しずつ前に進んでいく。
「この先……かな?」
しばらく歩いたところで洞窟を発見した。
馬車が入りそうなほど大きな洞窟だ。
ここにみんなを避難させれば……と考えるのだけど、すぐに考え直した。
魔力の流れは、この洞窟から感じる。
敵意ある者が嵐を引き起こしているとしたら、この洞窟は敵のアジトだろう。
そんなところで休めるわけがない。
「ハル、この洞窟から魔力が?」
「うん。細かい場所はわからないけど、この先であることは間違いないよ」
「なら、洞窟を崩落させて、まとめて全部吹き飛ばしましょう。さあ、一気にあいたたたたた!?」
拘束魔法を使用。
あーもう……どうしてこう、レティシアは物騒な発想しかできないのだろう?
これも魔人化の影響なのかな?
それとも、元々の性格なのかな?
小さい頃から、わりと強引で無茶をすることが多かったからなあ……
妙な懐かしさを覚えつつ、洞窟の中へ。
慎重に探索を進めていくと……
「これは……」
洞窟の中に村があるのを見つけた。




