316話 普通の嵐じゃない?
一通り嵐の対策をして、馬車へ戻り……
嵐が過ぎ去るのを待つことしばらく。
「……おかしいわね」
ぽつりと、アリスが言う。
「どういうこと?」
「この嵐、妙じゃない? いくらなんでも長すぎるわ」
言われてみると、確かに。
かれこれ一日近く足止めを食らっている。
リキシルには、かなり上等な馬車を用意してもらったのに、ちょっと不安になってしまいそうなほど、ギシギシという音が聞こえてくる。
嵐の勢力、勢いは拡大中。
でも、こんなに強力な嵐は聞いたことがない。
「歴史的な嵐の発生に立ち会ってしまったのでしょうか?」
「しかしお嬢さま、そのような確率、どれだけのものか」
「ないとは言い切れませんが、普通は、その可能性は除外してしまいますわね」
「……」
みんなであれこれと話し合う中、レティシアは、どうでもいいという感じで無言を貫いていた。
せっかくの機会だから、少しは距離を縮めたいんだけど……
うーん、難しい。
「むーん?」
そんな中、サナが微妙な顔をしていた。
さっきも気になる発言をしていたけど、なにか感じているのだろうか?
「サナ、どうしたの?」
「なーんか、むずむずするっす」
「トイレ? ここでしないでね?」
「違うっすよ!? ってか、シルファは自分のこと、ペットかなにかと思っていないっすか!?」
「え?」
「違うの、みたいな顔はやめてほしいっす!!」
猛抗議するサナの傍らで、アリスとクラウディアがそっと視線を逸らしたのが見えた。
二人もか。
「そんなんじゃなくて、自分は、なにか変な気配を感じる、ってことを言いたいっす!」
「変な気配?」
「うまく説明できないっすけど……なんか変な感じっす。この嵐に関係しているような気がするっす」
「サナ、あなた……」
アリスが驚きに目を大きくした。
「ふふん、自分を見直したっすか?」
「ついに、そういう妄想を思い描くように……」
「違うっすよ!? なんで妄想になるっすか!?」
「サナみたいな年頃の子には、よくあることよ。大丈夫。数年経てば治るから。まあ、その時にものすごく恥ずかしい思いをするけど」
「くけぇえええええ!!!」
サナが壊れた。
もちろん、今のはアリスの冗談だ。
やりすぎと思ったらしく、アリスは「しまった」というような顔に。
「そ、それで、その変な気配はどこからするのかしら?」
思い切り話題を逸らしていたけど、気にしない。
サナも見事に引っかかり、元の様子に戻り、話を続ける。
「うーん……あっちの方っすね」
サナは北の方を指差した。
街道は東に伸びているから、正規のルートから外れることになる。
馬車の窓から見ると、草木が鬱蒼と生い茂る森が広がっているのが見えた。
晴天の時なら探索は問題ないだろう。
ただ、この嵐の中で進むとしたら、相当な苦労が伴うだろう。
サナの勘を信じて、北を調べてみるか?
それとも、無理はしないで、ここで嵐が止むのを待つか?
「ハルさま、どういたしますか?」
判断を求めるように、ナインがそう問いかけてきた。
他のみんなも俺を見る。
「……調べてみよう」
このままじっとしていても、嵐が止むという保証はない。
下手をしたらより悪化して、最悪の事態を招いてしまうかもしれない。
そうなる前に、できることはするべきだ。
「探索するメンバーと、いうざという時のためにここで待機するメンバー、二手に分かれて行動しよう」
みんなの顔を見て、少し考えて……
そしてメンバーを決める。
「探索は、俺とアリスとレティシア。残りは、ここで待っていて」
「三人だけなんですか?」
「しかも、よりにもよって……」
なにか言いたそうに、クラウディアがレティシアを見る。
信用できるのか? と考えているのが一目でわかる。
今のレティシアは信用できない。
一応、おとなしくしているものの……
なにをするかわからない怖さがある。
だからこそ、俺が同行する。
いざという時、魔法の枷で縛ることができるため、俺が一番の適任者だ。
ただ、まあ……けっこうポカをやらかすことが多いと自覚しているため、アリスにはそのサポートをしてほしいというわけ。
「……わかりましたわ。これ以上、異議を唱えるつもりはありません。ですが」
「気をつけてくださいね……?」
「うん。心配してくれてありがとう」




