315話 悪天候
旅は途中まで順調だった。
リキシルが手配してくれた馬車は乗り心地がよく、長時間乗ってもお尻が痛くなることはないし、酔うこともない。
その上、速度はそこそこ出ていて、日程をかなり短縮することができた。
しかし、半分くらいの行程を踏破したところで問題が起きた。
――――――――――
馬車は広く、全員が中に入っても問題はない。
御者は自分達で用意することになっている。
それはナインが務めているのだけど……
そのナインも、今は馬車の中に。
その理由は……
「まいったなあ……」
「すごい雨ですね」
突然の雷雨。
これはたまらないと、大きな木の下に避難したというわけだ。
「馬、大丈夫かな?」
シルファが心配そうに窓の外を見る。
「こういう時のための、馬用の休憩小屋を作っておいたから、問題ないと思うよ。一応、魔法で補強しておいたし」
「なら、よかった」
動物のことになると、シルファはいつも以上に優しくなるんだよね。
そこが、彼女の良いところだ。
「天気に恵まれないなんて、ついていませんわね」
「自分、ブレスで雨雲を散らしましょうか?」
「やめて。なんかもう、大失敗して、森林火災を引き起こしそうだからやめて」
「すぐ力技にいこうとするところが、サナの悪いところよ?」
「そのようなことをしたら、わたくし達も吹き飛んでしまいますわ」
「ダメ」
俺を初めとして、みんなに全力で止められていた。
その光景を見て、アンジュが苦笑して、ナインは静かに笑う。
「見た感じ、通り雨っぽいから、少し待てば止むよ。休憩っていうことで、のんびりしよう」
「そうね」
「えっと……実は私、こんなものを持ってきたのですが……」
アンジュが取り出したカードゲームで時間を潰すことに。
サナが驚異の10連敗をして。
ナインが驚愕の10連勝をして。
思いの外カードゲームに夢中になってしまい、楽しく時間を潰すことができた。
できたのだけど……
「雨、止みませんね……」
足を止めて、そろそろ1時間が経とうとしていた。
それなのに雨が止む気配はない。
それどころか、より激しく、叩きつけるような暴風雨に変化していた。
「通り雨じゃなくて、嵐の発生現場に出くわしちゃったのかな……?」
まいったな。
通り雨じゃなくて嵐だとしたら、数時間だけじゃなくて、数日、足を止められてしまうかもしれない。
それだけじゃない。
本格的な嵐の対策が必要になる。
「すんすん、すんすん」
犬のようにサナが鼻を鳴らした。
「うーん?」
「どうしたの?」
「師匠が言うように、これは嵐っすね」
「そんなことわかるの?」
「匂いが違うっす!」
ドヤ顔で言われてしまう。
匂いでそんなことがわかるのは、確かにすごいと思うけど……
犬みたい、と考えたら失礼だろうか?
「ただ、うーん……なーんか微妙な感じっすね」
「微妙?」
「普通の嵐じゃないというか、なんか違和感があるっす」
「ふむ」
普通じゃないというと、数年に一度の巨大な嵐とか?
あるいは……魔法などで発生させた、人工的な嵐……とか?
サナもハッキリとしたことは言えないらしく、もどかしそうな顔をしていた。
さて、どうしよう?
「……違和感とか、そういうの、どうでもいいんじゃない?」
今までずっとおとなしくしていたレティシアが、かなり久しぶりに口を開いた。
馬車の旅の間、ずっと口を閉じていたんだけど……
サナと同じように、嵐になにか感じるものがあるのだろうか?
「とにかく、嵐の対策をする。そこの馬もそうだけど、対策をしておかないと、この馬車もどうなるかわからないわよ」
「それもそうだね……教えてくれてありがとう、レティシア」
「べ、別に教えたわけじゃないし。私まで巻き込まれるのはイヤなだけよ!」
落ち着いている時のレティシアは、ツンデレっぽい。
なんて言うと、怒りそうなので黙っておくのだけど。
「それじゃあ、手分けをして準備をしようか。嵐が本格化する前に、補強とか食材の回収とか、色々とやっておこう」
「「「らじゃー!」」」
ナインとレティシアを除いたみんなが、元気よく返事をした。
そして俺達は、暴風雨の中、外へ。
馬の休憩小屋をさらに補強して、風と雨よけの盾を作り、念の為に乾かせば薪として使えそうな木を集めて、木の実や魚なんかも集めて……
これならどうだ! というくらい、完璧な対策をした。
それから交代で濡れた服を乾かして、みんなで馬車の中にこもる。
「これなら大丈夫かな?」
そんなことを思っていたのだけど……
半日が経過しても嵐が止むことはなくて、さらに悪化していた。




