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314話 妙な感じ

 再びの馬車の旅。


 以前は、落ち着きのないサナやシルファが外に出て、魔物なんかを相手にしていたけれど……


「すぴかー、ぐすぴー」

「すぅ……すぅ……」


 今日はそんな気分ではないらしく、猫のように丸くなって寝ていた。

 窓から差し込む日差しを浴びて、とても心地よさそうだ。


 アリス達は馬車の外。

 散歩感覚で歩いている。

 少しは体を動かしておかないと、後で大変なことになるそうだ。

 油断ができないという。


 ……大変なことって、なんだろう?


 そして俺は……


「……」

「……」


 馬車の中で、レティシアと二人きり。


 正確に言うと、サナとシルファがいるのだけど……

 共に熟睡しているため、二人きりと言っても問題はないかもしれない。


「えっと……」


 せっかくの機会だ。

 なにか話を……と思うのだけど、言葉が出てこない。


 対面に座っているのはレティシア。

 大事な幼馴染。


 一時期は暴君と化していたものの、それには事情があった。

 彼女は悪くない。


 そう頭では理解しているのだけど、体が追いついてくれない。

 何度も罵声を浴びせられたり、時に手が飛んできたり……

 そんな日々が続いていたから、なかなかどうして、声をかけるという簡単なことすらできない。


 彼女を正気に戻せば終わり、というわけではなさそうだ。

 俺の方も、色々と直さないといけないところがある。


「……ねえ」

「な、なに?」


 ふと、レティシアが口を開いた。


 ただし、視線は窓の外。

 こちらを見ることなく、どことなくふてくされた感じで言う。


「私達、どこへ向かっているの?」

「あれ? 言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよ。どうして、そんな肝心なことを忘れるわけ? ハルの頭の中身は空っぽなの?」

「ご、ごめん」

「ふんっ」


 魔法の枷をつけているのだけど、立場が変わっていない。

 むしろ、前よりも悪化しているような……?


 ひさしぶりに一緒に過ごすからなのか、どう接していいか、完全にわからなくなってしまっていた。


「えっと……」

「なによ?」

「い、色々としたいことがあって。それで、学術都市へ」

「ふーん」

「……」

「それだけ?」

「え?」

「色々としたいことについて、説明は? それだけで理解できるわけないでしょ」

「そ、そうだね。ごめん」

「ふんっ」


 以前と比べたら、暴君度合いは減っているのかもしれないけど……

 でも、とんでもなく気まずい。

 なんかもう、ストレスで胃に穴が空いてしまいそうだ。


「うぅ……」


 俺、学術都市まで無事でいられるのかな?




――――――――――




「むう」


 馬車の外を散歩するフリをして、こっそりと中の様子をうかがうアリス達。

 ハルとレティシアのやりとりを覗き見して、アリスは頬を膨らませた。


「ハル、デレデレしているわね」

「しているのでしょうか……?」

「わたくしには、心労で倒れそうに見えますが……?」

「甘い、甘いわ!」


 ビシリとアリスが二人を説教する。


「なんだかんだで、ハルはレティシアと一緒にいられることを喜んでいるはず」

「そうなんですか?」

「そうよ。今まですれ違ってすれ違いまくってきたからこそ、本当のことがわかった今、やり直したいと思うのは当然のこと。その一歩を踏み出すことができたのだから、うれしくないわけがないの」

「なるほど。言われてみれば、そういう考えもあるかもしれませんわね」


 ぎこちなさ全開のハル。

 不機嫌そうなレティシア。


 ただ、決定的な溝があるかと言われたら、そうは見えない。

 お互いに歩み寄るポイント探しているかのようで……

 なにかきっかけがあれば、一気に距離が縮まるような気がした。


「ですが、それは喜ばしいことなのでは?」

「普通ならそうなんだけど……」


 アリスは微妙な顔をして……

 その後、他の二人には聞こえないような小さな声で言う。


「……元通りになればいい、って考えていたけど、でも、いざ目の前でそうなると動揺しそうね。はぁ……」


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 単純によりを戻しましょうで片付かないからもどかしいな(ʘᗩʘ’) レティシア自身も口ではツンツンだけど内心は右往左往してるのか(?・・)
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