313話 また
リキシルのおかげで、大きくレベルアップすることができた。
それと、彼女の力になることができた。
武術都市にやってきた目的は全て達成した。
ここはとても居心地がいいのだけど……
でも、いつまでも滞在するわけにはいかない。
これから先のことを、よりハッキリと定めるために。
大事なものがこの手からこぼれ落ちないようにするために。
一度、学術都市に戻る必要があった。
リリィやシノと話をしたいというのもあるけど……
それだけじゃなくて、学術都市にある知識が欲しい。
ちょっとした思いつきを叶えるためには、もっともっと、色々なことを学ばないといけないのだ。
というわけで、学術都市へ戻ることになって……
武術都市を発つことになった。
――――――――――
「世話になったな」
旅立ちの日。
リキシルを始め、色々な人が見送りに来てくれた。
その中に、もちろんというべきかエリンの姿もある。
そっぽを向いていて、なんでこんなめんどくせーこと、と言いたそうな顔をしているのだけど……
落ち着きのない様子で、チラチラとこちらを見ている。
エリンなりに寂しく思ってくれているのだろう。
「けっ、さっさと帰っちまえ」
……たぶん。
「それは俺の台詞だよ。色々と教えてくれて、本当にありがとう」
「そうか? ハルなら、あたしがいなくても、自力でその域に到達してたと思うけどな」
「そんなことは……」
「ありそうね」
「ありそうですね」
「ありそうですわ」
「みんな……」
アリスとアンジュとクラウディアが、ぴたりと声を揃えて言う。
俺、どういう風に思われているんだろう?
自分の都合で進化できるような、とんでもない存在じゃないはずなのに。
……ないよね?
「馬車は手配しといたぜ。学術都市まで一直線だ」
「なにからなにまで、ありがとう」
「それくらい世話になったからな。恩返しくらいはさせてくれ」
リキシルは、あくまでも自分が世話になったというスタンスを崩さない。
確かに、武術大会では力を貸したけど……
でもその分、色々なところで助けてもらっている。
ウィンウィンの関係だと思うんだけど……
まあいいか。
リキシルの感謝の気持ちを否定したくはない。
素直に受け取っておくことにしよう。
「ししょー! 馬車、そろそろ出るみたいっすよ」
「シルファは馬車の上がいいかな」
「そこに座る子、初めてみるんだけど……」
みんなはすでに馬車の方へ移動していた。
あれこれとおしゃべりしつつ、荷物を積み込んでいる。
うん。
あまり話をしても、別れが名残惜しくなるだけだ。
それに、切り上げるタイミングも逃してしまう。
ここがその時だろうと判断して、一歩、後ろへ下がる。
「それじゃあ」
「ああ」
リキシルと目で挨拶を交わした。
互いに元気で。
そして、またいつか笑顔で再会しよう。
そんな感じの挨拶だ。
今はそれで十分。
言葉は、再会した時にとっておこう。
そう決めて、俺は背を向けて……
「ハル!」
エリンの声が響いて、振り返る。
「し、仕方ねーから、また来てもいいぞ」
なんともエリンらしい言い方に、ついつい笑みがこぼれてしまう。
「うん、また来るよ」
「絶対だぞ!? 絶対だからな!?」
「うん、絶対だよ」
「……待ってるからなっ、ちくしょー!」
そして……
俺達は、長い時間を過ごした武術都市を後にした。




