312話 ふふんっ
「……そんなわけで、レティシアは、俺の目の届く範囲にいること。それが、勝者としての命令だよ」
レティシアと合流して、そんな話をした。
勝者は敗者に一つ、なんでも命令することができる。
そんな約束だったけど……
おとなしく話を聞くかどうか、かなり怪しいところだ。
「そんな約束知らないわ」とか。
「はあ? 私に命令するなんて百万年早いのよ!」とか。
そんな反応が予想できるのだけど……
「ふふんっ」
なぜか、レティシアはまんざらでもない顔をしてみせた。
あれ?
予想と違う反応だけど、どういうことなんだろう?
「えっと……返事は?」
「いいわ」
「いいの!?」
「なんで驚くのよ?」
「いや、だって……」
まさか、こんなにもあっさり了承されるなんて。
揉めることを覚悟していただけに、自分で言っておいて驚いてしまう。
「あれでしょう?」
「あれ?」
「ハルはとっても雑魚で雑魚雑魚だから、この強くで賢い私の力を借りたい、っていうことでしょう?」
いや、まあ……
口の悪さはいつもの彼女なのだけど、その雑魚に負けたレティシアはどうなるのだろうか?
勢いだけで発言していないだろうか?
口の悪さと比例して、頭もちょっと残念になっているような気がした。
「えっと……うん、そういうことでいいや」
「「「いいの!?」」」
様子を見ていたみんながツッコミを入れるけれど、頷いてみせた。
レティシアがごねたら話がこじれるだけで、目的に到達することはない。
なら、妙な勘違いをされていたとしても、彼女が納得しているうちに話を進めてしまった方がいい。
「私の力を貸してほしい?」
「うん」
「どうしようかしらぁ~」
ちょっとイラっときた。
みんなもこめかみの辺りをひくつかせていた。
「ま、いいわ。仕方ないから、しょうがなく、私はとても慈悲深いから、特別に力を貸してあげる! ふふんっ」
ドヤ顔でそう言う。
ちょっと……
いや、かなりイラッとくるのだけど、我慢我慢。
笑顔を浮かべたまま話を先へ進める。
「うん、よかった。じゃあ、レティシアは俺の提案を受け入れる、ってことでいいんだね?」
「ええ、いいわ」
「……よし」
その了承が必要だった。
即座に魔法を発動させる。
「アストラルバインド」
「へ?」
光の鎖が宙に出現した。
それは一瞬、強く輝いたかと思うと、レティシアに絡みついて……そのまま消える。
「ちょ……なによ、今の!?」
「魔法だよ」
「そんなこと見ればわかるわ! 私にどんな魔法をかけたのか聞いているの!?」
「こんな魔法」
「いたたた!?」
レティシアが俺に掴みかかろうとした、その瞬間……
彼女の頭に光の輪が出現して、バチバチと放電した。
その痛みに転がりまわるレティシア。
「な、なによこれ!?」
「対レティシア用の魔法、っていうところかな?」
勝者の命令でレティシアを同行させることができたとしても、その後が問題だ。
この状態のレティシアに言うことを聞かせることは不可能に近い。
そのうち、なにかしらの問題を起こす。
それを防ぐための魔法を開発した。
俺の合図、任意のタイミングで電流を流して、行動を阻止するというものだ。
この魔法があれば、比較的スムーズに言うことを聞かせることができる。
あと、反逆も阻止できる。
動物に枷をつけているみたいで、ちょっと気がひけるのだけど……
こうでもしないとレティシアの制御は不可能だろう。
「ハルってば、まさか、こんなことを考えていたなんて……でも、これなら納得だわ」
「調教師みたいだね」
そんなみんなの感想が聞こえる中、
「くううう、ハル、ふざけたことを……あいたたたたた!?」
レティシアが転げ回り、悲鳴をあげるのだった。




