表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

313/547

311話 ありがとう

 特に大きな問題はなく、表彰式は無事に終了した。


 俺達が優勝者として認められて……

 それと同時に、リキシルの領主続投が決定した。


 その瞬間、闘技場は大いに湧いた。


 リキシルを歓迎する人がたくさんいる。

 そんな人のために力になることができた。

 そのことが少し誇らしい。


 その後、リキシルの屋敷へ戻り……


「おうおうおう、やったじゃねえか! おい、マジで優勝するか、おい! やるな!」

「いたたた!?」


 顔を合わせるなり、エリンがバシバシと背中を叩いて、ビシビシと殴り、バンバンと叩いてきた。

 痛い痛い。


 笑顔なところを見ると、祝福しているつもりなのだろう。

 でも、祝福=叩くというのは、どうなのだろうか?

 傭兵みたいなノリで、ちょっとだけエリンの将来が心配になる。


 手荒い歓待を受けた後、リキシルのところへ……


「……なあ」


 行こうとしたところで、エリンに声をかけられた。


 今度は叩かれることはない。

 エリンはどこか恥ずかしそうにしていて、落ち着きがない。


 どうしたのだろう?


「あー、なんていうか、つまりだな……」

「エリン?」

「ハルに……っていうか、お前らにはその、色々と……あー……」

「えっと、どうしたの? リキシルと話をしないといけないから、なにかあるなら後で……」

「今がいいんだよっ!」

「はい」


 迫力に押され、ついつい背を正してしまう。

 エリンはそんな俺の前に立ち、じっとこちらを見上げた。


「……ありがとな」

「え?」

「だから、ありがとな、って言ってるんだよ! 聞き逃すな!」


 まさか、あのエリンがそんなことを言うなんて。

 思ってもいない展開に、ついつい目を丸くしてしまう。


 そんなことをすれば、エリンは怒るかもしれない。

 ただ、彼女も自分が似合わないことをしているという自覚はあるらしく、苦い顔をしていた。


「ハル達のおかげで、リキシルが領主を続けることができる。ってことはつまり、孤児院も存続できるわけだ。家を守ってくれたようなものだから……ホント、感謝してるんだ」

「……エリン……」

「だから……ありがとな」


 恥ずかしさが限界に達したのか、エリンは顔を伏せる。

 そのまま、トンと俺の胸に額を押しつけてきた。


 甘えてくれているのかな?

 それとも、感謝の証?


 よくわからないけど……


「どういたしまして」


 そんな当たり前の言葉を返しておいた。




――――――――――




「ありがとう」


 エリンと別れ、リキシルと面会するのだけど……

 こちらでもお礼を言われてしまう。

 しかも、深く頭を下げられるというおまけ付きだ。


 それなりの付き合いができたけど、こんな姿は初めてだ。

 エリンの時と同じく、慌ててしまう。


「あ、いや……そんなことは」

「謙遜するな。ハル達は、普通はできないようなことをやってのけたんだ。でもって、その無茶振りをお願いしたのはあたしだ。頭を下げるのは当たり前だろ?」

「そう、なのかな……?」


 一方的な関係じゃなくて、俺も、リキシルには色々とお世話になった。

 稽古をつけてもらい、ソウルイーターを開発することができた。


 ウィンウィンの関係なのだから、あまり気にすることはないと思う。


「ハルさま。こういう時は、素直に謝礼を受け取るものですわ。でないと、相手の面子を潰してしまうことになりますの」

「そ、そうなの?」

「そうですわ」


 うーん……立場のある人の世界って難しい。


「でも、こうしてあたふたしている方がハルらしいわね」

「そうだね。シルファもアリスの意見に賛成かな?」

「二人共、それは……ですが、私もそう思ってしまいます」


 なんかもう、言われ放題だ。

 でも、悪い気はしない。

 仲が良いからこその茶化しというか、軽口なので、笑うことができる。


「うん」


 色々とあったけど……

 最終的に、こうしてみんなが笑う結末を勝ち取ることができた。


 そのことはうれしくて、誇ってもいいのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ