311話 ありがとう
特に大きな問題はなく、表彰式は無事に終了した。
俺達が優勝者として認められて……
それと同時に、リキシルの領主続投が決定した。
その瞬間、闘技場は大いに湧いた。
リキシルを歓迎する人がたくさんいる。
そんな人のために力になることができた。
そのことが少し誇らしい。
その後、リキシルの屋敷へ戻り……
「おうおうおう、やったじゃねえか! おい、マジで優勝するか、おい! やるな!」
「いたたた!?」
顔を合わせるなり、エリンがバシバシと背中を叩いて、ビシビシと殴り、バンバンと叩いてきた。
痛い痛い。
笑顔なところを見ると、祝福しているつもりなのだろう。
でも、祝福=叩くというのは、どうなのだろうか?
傭兵みたいなノリで、ちょっとだけエリンの将来が心配になる。
手荒い歓待を受けた後、リキシルのところへ……
「……なあ」
行こうとしたところで、エリンに声をかけられた。
今度は叩かれることはない。
エリンはどこか恥ずかしそうにしていて、落ち着きがない。
どうしたのだろう?
「あー、なんていうか、つまりだな……」
「エリン?」
「ハルに……っていうか、お前らにはその、色々と……あー……」
「えっと、どうしたの? リキシルと話をしないといけないから、なにかあるなら後で……」
「今がいいんだよっ!」
「はい」
迫力に押され、ついつい背を正してしまう。
エリンはそんな俺の前に立ち、じっとこちらを見上げた。
「……ありがとな」
「え?」
「だから、ありがとな、って言ってるんだよ! 聞き逃すな!」
まさか、あのエリンがそんなことを言うなんて。
思ってもいない展開に、ついつい目を丸くしてしまう。
そんなことをすれば、エリンは怒るかもしれない。
ただ、彼女も自分が似合わないことをしているという自覚はあるらしく、苦い顔をしていた。
「ハル達のおかげで、リキシルが領主を続けることができる。ってことはつまり、孤児院も存続できるわけだ。家を守ってくれたようなものだから……ホント、感謝してるんだ」
「……エリン……」
「だから……ありがとな」
恥ずかしさが限界に達したのか、エリンは顔を伏せる。
そのまま、トンと俺の胸に額を押しつけてきた。
甘えてくれているのかな?
それとも、感謝の証?
よくわからないけど……
「どういたしまして」
そんな当たり前の言葉を返しておいた。
――――――――――
「ありがとう」
エリンと別れ、リキシルと面会するのだけど……
こちらでもお礼を言われてしまう。
しかも、深く頭を下げられるというおまけ付きだ。
それなりの付き合いができたけど、こんな姿は初めてだ。
エリンの時と同じく、慌ててしまう。
「あ、いや……そんなことは」
「謙遜するな。ハル達は、普通はできないようなことをやってのけたんだ。でもって、その無茶振りをお願いしたのはあたしだ。頭を下げるのは当たり前だろ?」
「そう、なのかな……?」
一方的な関係じゃなくて、俺も、リキシルには色々とお世話になった。
稽古をつけてもらい、ソウルイーターを開発することができた。
ウィンウィンの関係なのだから、あまり気にすることはないと思う。
「ハルさま。こういう時は、素直に謝礼を受け取るものですわ。でないと、相手の面子を潰してしまうことになりますの」
「そ、そうなの?」
「そうですわ」
うーん……立場のある人の世界って難しい。
「でも、こうしてあたふたしている方がハルらしいわね」
「そうだね。シルファもアリスの意見に賛成かな?」
「二人共、それは……ですが、私もそう思ってしまいます」
なんかもう、言われ放題だ。
でも、悪い気はしない。
仲が良いからこその茶化しというか、軽口なので、笑うことができる。
「うん」
色々とあったけど……
最終的に、こうしてみんなが笑う結末を勝ち取ることができた。
そのことはうれしくて、誇ってもいいのかもしれない。




