310話 本当にいいの?
「どういうこと?」
表彰式の準備のため、レティシアは自分の控え室に戻り……
そうして俺達だけになったところで、アリスが厳しい顔で問いかけてきた。
ちょっと怖い。
アリスに本気で怒られたことは、ない……と思うのだけど。
とてもピリピリとした様子で、昔、いたずらをして親に怒られた時を思い出す。
「このままレティシアを連れて行くって、本気?」
そう。
アリスが言うように、レティシアを目の届く範囲に置くことにした。
ただ、そのことについて事前の相談はしてなくて……
突然のことに驚いていた。
そして、勝手な選択を怒っていた。
うん、ごめんなさい。
悪いとは思っているんだけど、俺も、今さっき決めたことで……
って、言い訳にならないか。
「ハルさま、どうしてそのような結論になるのですか? わたくしは、納得できませんわ」
「私もです。レティシアさんは、ハルさんになにかしそうで……とても危うい選択に思えるのですが……」
クラウディアとアンジュも納得していないみたいだ。
アリスと同じで、突然のことに驚いて、怒っていて……
それと、俺のことを心配してくれている様子だ。
ちなみに、ナインは口を挟まない。
アンジュの選択に全て任せるつもりなのだろう。
サナとシルファは、マイペースにのんびりとしていた。
「「「どういうこと!?」」」
「うっ」
三人に問い詰められて、怯んでしまう。
なんていうか……
三股が発覚して窮地に陥った男みたいだ。
いや、そんなことは絶対にしないけどね?
「考えなしに言っているわけじゃないんだ」
「……なら、ハルの考えっていうのは、どういうものなの?」
「えっと……」
全力で暴れた後なのか、今のレティシアは比較的落ち着いている。
理不尽なところはそのままだけど、対話が可能だ。
でも、悪魔の魂の侵食が進んだら?
たぶん、自我を保つことが難しくなり、対話が不可能に。
最悪……手にかけなければならないだろう。
そんなことはイヤだ。
絶対にイヤだ。
あと、今回、武術大会に乱入したように、レティシアは目を離すとなにをやらかすかわからない怖さがある。
懐に抱えると、それはそれで問題は多そうなのだけど……
それでも、目の届く範囲に置いた方がまだ安心できる。
……ということを話した。
「この機会を逃したら、次はいつ接触できるかわからないし、このまま連れて行くのが一番だと思うんだ」
「それは……」
「まあ……」
アリスとクラウディアの勢いが衰えて、それなら仕方ないかも? というような顔に。
ただ、アンジュは心配顔のままだ。
「ハルさんの言いたいことはわかりますが、それでも、私は心配です……」
「ありがとう、アンジュ。俺のことを心配してくれて、すごくうれしいよ」
「そ、それは、あの……はぅ」
にっこりと笑いかけると、アンジュはなぜか視線を逸らしてしまう。
なんで?
「でも、大丈夫。そのために枷をつけたんだから」
枷というのは、レティシアにかけた魔法のことだ。
勝者は敗者になんでも一つ命令することができる。
その特権を使い、俺は、レティシアに服従の魔法をかけた。
服従の魔法と聞くと物騒なものを想像するかもしれないが……
そこまでひどいものじゃない。
術者の意思で、好きな時好きなタイミングで電流を流して、反抗させなくするという魔法だ。
……やっぱりひどいかもしれない。
それはともかく。
「枷もあるから、レティシアはそうそう変なことはできないと思うよ」
「ですが……」
「それと、みんながいるから」
アリス、アンジュ、ナイン、サナ、シルファ、クラウディア……みんなの顔を順に見る。
俺一人ならダメかもしれない。
でも、みんながいる。
なら、なんとかなると思うのだ。
まあ、一人で解決できた方がスマートだし、みんなを巻き込むようで申しわけないのだけど……
そこは、今後、タイミングを見て恩を返していくということで。
「「「……」」」
アリスとクラウディアを含めて、三人がキョトンとした。
ややあって、小さな笑みをこぼす。
「まったく……ハルってば、素でそういうことを言うんだから、とんでもないわよね」
「本当ですわ。そのようなことを言われたら、わたくし達としては、協力するしかありませんわ」
「ちょっと不安は残りますけど、でも、ハルさんのためにがんばりたいです」
よくわからないけど、納得してくれた……っていうことでいいのかな?




