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309話 命令

 げんこつを落とすと、わりと情けない悲鳴がこぼれた。


 戦闘前は危険な雰囲気が漂い、レティシアらしさはほとんと見えなかったけど……

 今は違う。


 強気で勝ち気で、元気がよくて……

 でも、ちょっと抜けたところがある。

 俺のよく知るレティシアに近い。


 やっぱり、思い切り暴れたことで悪魔の侵食を押さえることができたのかな?

 あるいは、力を使いすぎて悪魔の影響が薄くなっているのか。


 どちらにしてもチャンスだ。


「レティシア」

「な、なによ……?」

「賭けのこと、覚えている?」

「うっ」

「負けた方がなんでも一つ、言うことを聞くんだよね?」

「……さあ、なんのことかしら」


 ふいっと顔を逸らして、思い切りとぼけた。


 後ろでサナが、「ずっこいっす!」なんて言っているけど……

 ただ、俺は笑っていた。


 うん。

 やっぱり、こういう方がレティシアらしい。


「へえ、そんなこと言っていいの?」

「なによ。ハルごときが、私を脅すつもり? はっ、できるものならやってみなさいよ。甘ちゃんのハルに大したことできるわけないでしょ」

「なら、遠慮なく」




――――――――――




「あはははっ!? ひゃっ、あは、ふふふ、や、やめっ、あははは!?」


 レティシアは悶ていた。

 涙を流して、もうやめてくれと必死に訴えていた。


 あのレティシアをここまで堕とすなんて、なにをしたのか?


「ハル、なんて恐ろしいことを……」

「師匠、鬼畜っす……」


 アリス達は顔を青くしているものの、別に、ひどい拷問をしているわけじゃない。

 ただ単に、鳥の羽を使いくすぐっているだけだ。


「ふふふ、もっと苦しみなさい。さあ、さあ!」

「がんばれ、がんばれ」


 クラウディアとシルファにも手伝ってもらっているんだけど……

 なぜか、二人はノリノリだ。

 とても楽しそうに、レティシアをくすぐっている。


 ……変な性癖があるとか、そういうことでないことを祈ろう。


「わ、わかった、わかったからぁ!? 言うことを聞く、聞くからもうやめてぇ!」

「本当に? やっぱりやめて、とか言わない?」

「言わない、言わない! 約束するわ!」


 涙目のレティシアは、必死な様子で訴えてきた。


 その様子は、昔、いたずらをして母親に叱られていた時とそっくりで……うん。

 これなら大丈夫かな。


 くすぐりをやめて……

 それから、息も絶え絶えのレティシアに命令を下す。


「じゃあ、勝者の特権を使うね」

「……好きにしなさいよ」

「以後、俺の命令に従うように」

「な、なにを……」

「反論も質問も認めないよ。これからレティシアは、俺の命令を絶対とすること。いいね?」

「そ、そんなこと……」

「いいね?」

「……わかったわよ」


 ふてくされた様子ではあったものの、レティシアは一応頷いてみせた。


 書面で約束を交わしたわけでもない。

 魔法で契約をしたわけでもない。

 それでも、レティシアからこの言葉を引き出すことができたのは大きい。


 ただの言葉と侮ることなかれ。

 魔法が言葉を媒介として発動するように、一定の力を秘めている。


 東の国で『言霊』なんて概念があるように、ある程度、言葉で対象を縛ることは可能だ。

 ましてや、俺は魔王。

 レティシアは、その配下である悪魔。

 上下関係を考えると、なおさら逆らうことはできない。


「ひとまずレティシアは、これから、俺達と一緒にいること」

「なによ、それ。ハルのパーティーに入れ、っていうこと?」

「うん、そんな感じ」

「はっ。この私をハルごときが自由に使えると思っているの? だとしたら、おめでたいわね。もう一度、子供から勉強をやり直してきたら?」

「はい、アウト」

「ふぎゃ!?」


 三度、げんこつを落とした。

 躾は大事だ。


「その口調はもう諦めているけど、俺の言うことに反対するのはダメ。今のレティシアは、俺に絶対服従っていう立場なんだからね」

「くぅううう……ハルのくせに、ハルのくせに……いつか絶対に泣かす、泣かしてやるわ……」

「それができるならね」


 俺は笑い……

 レティシアはこちらを睨みつけて……


 昔のような関係には程遠いけど、でも、一歩近づくことができたような気がした。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] どんな調きょ、治療行為かと気になってたけどまさに悪い娘にはO.SI.O.KIで済ませるとは(ʘᗩʘ’) これなら合法の範疇で誰も文句は言えんぞ (⑉⊙ȏ⊙) 適当に放置すると更にグレるか…
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