308話 おめでとう! 痛い!
「「「おめでとうっ!!!」」」
表彰式は後回し。
治療のため控え室へ移動すると、アリス、アンジュ、クラウディアが抱きついてきた。
ついつい、そんなことをしてしまうくらいうれしいのだろう。
そんなみんなを見ていると、俺もうれしくなるのだけど……
「いたたたっ」
ついつい悲鳴がこぼれてしまう。
「えっ、ハル、どうしたの? 怪我をしたの?」
「ど、どどど、どうしましょう!?」
「ちょっとアンジュ、聖女のあなたが慌ててどうするの。すぐに治癒魔法を」
「あー……うん、それは大丈夫。ひどい怪我をしたわけじゃないから」
全身が痺れるみたいで……
ついでに、指先を動かしただけで、ジンジンと響くような痛みが走る。
筋肉痛だ。
ソウルイーターは、魔法を外に解き放つのではなくて、内に溜め込む。
そうすることで爆発的なエネルギーを得ることができるのだけど……
薬を使っているようなものなので、基礎身体能力が向上するわけじゃない。
有り余るエネルギーで強引に体を動かしているだけだ。
身体能力向上魔法なら、体を補強するなどしてうまくやるのだけど……
ソウルイーターは、実のところまだ未完成。
その辺りがうまくできてなくて、負担がものすごい状態だ。
ファイアを取り込むくらいなら、まあ、なんとかなるんだけど……
エクスプロージョンなんて取り込んだものだから、体のあちらこちらが痛い。
「ハルってば、またそういうおかしな魔法を使う……」
事情を説明すると、アリスを始め、みんなが呆れた。
なぜ?
「そ、そうでもしないと、レティシアには勝てなかったし……」
「でも! ハルは、もうちょっと自分のことを気にして」
「そうです。ハルさんが無茶をする度に、私達がどんな思いをしているか……」
「ご自分の行動が周囲にどんな影響を与えるか、きちんと考えてくださいませ」
「ごめんなさい……」
三人に怒られてしまい、謝ることしかできなかった。
一方、シルファは……
「いて」
「すみません、大丈夫でしょうか?」
「大丈夫。ちょっと骨にヒビが入っているだけ」
「それは大丈夫ではありませんね……私の治療では限界があるため、後で、運営スタッフかハルさまに治癒魔法をかけてもらいましょう」
ナインの治療を受けていた。
けっこう無理をしていたみたいで、わりと重傷だ。
無理をさせてしまったみたいで申しわけない。
シルファのことだから、「気にしてないよ」とか言うと思うんだけど……
そういうわけにもいかない。
今度、なにかしら労ってあげないと。
「自分の唾液、塗るっすか?」
「……どうして、そのような結論になるのでしょうか?」
「ドラゴンの唾液は、そこそこの治癒効果があるっすよ?」
サナがべーっと舌を出した。
滅多に表情を変えないシルファが、頬をひきつらせる。
「……遠慮するね」
「えー、そうっすか? あ、もしかして信じてない? まーまー、騙されたと思ってなめられてみるっす」
「やだよ」
「照れてるっすか?」
「どうしてそういう結論になるのかな……」
あのシルファを呆れさせるなんて……
サナ、すごい!
って、妙な感心をしている場合じゃない。
「みなさま。一通りの治療が終わったのならば、彼女をどうするか、考えるべきかと」
ナインの視線の先には……
「……ふん」
ふてくされた感じで、椅子に座るレティシアが。
ただし、拘束具で自由を奪い……
魔力などを封印する道具を山盛りにして……
これでもかというくらい、がんじがらめにしていた。
決勝戦の後、彼女と話をしたいと、気絶してるレティシアを無理矢理連れてきて……
そのまま拘束させてもらった。
仕方ない。
こうでもしないと暴れるかもしれないし、そもそも、また逃げられるかもしれない。
必要な措置だ。
「このあたしにこんなことをするなんて……あんたら、絶対に後悔させてやるわ。泣いて叫んで、もっかい泣いて懇願するくらい、後悔させてやるんだから」
口を開くと暴言が飛び出してくる。
こんな状況なのに、ひたすらに強気なのは変わらない。
それは昔からのことだ。
小さい頃のレティシアも、今と同じように、とにかく勝ち気で強気だ。
そのことを考えると、若干、昔に戻っているのかもしれない。
思い切り暴れて……
そのおかげで、少しだけ悪魔の束縛を抜け出せることができたのかな?
「今なら半殺しで許してあげる。さあ、私を自由にしなさい。でないと、とことん後悔するわよ」
「……」
「な、なによ?」
無言でレティシアの前に立つ。
そんな俺を不気味に思ったらしく、わずかにレティシアの声が揺れた。
「……」
レティシアをじっと見つめて……
なにも言わず、じっと見つめて……
「うっ」
レティシアが再びたじろいだところで、俺は手を振り上げた。
「えいや」
「ぷぎゃ!?」
そのままレティシアの頭にげんこつを落とした。




