306話 二度目の決闘・その6
「なん……だ……?」
立っていることさえ難しく、ふらついてしまう。
そのまま倒れてしまいそうになるが、しかし、そこは気合と根性で耐えた。
とはいえ、そこが限界。
もはや一歩も動くことができない。
いったい、なにが……?
「あはっ、あははははは! ハル、だからあんたは雑魚なのよ」
レティシアは、ものすごく楽しそうに笑っている。
唇の端を吊り上げて、ニヤニヤと笑っている。
彼女の仕業か?
でも、なにを……
いや、違う。
レティシアではなくて……
「いやあ、忘れていないですかね? 私はまだ、リタイアしたわけじゃないんですが」
レティシアのパートナーも、ニヤニヤと笑っていた。
彼はただの数合わせ。
だから、敵としてカウントしていなかったのだけど……
甘かった。
そうやって意識を逸らしたところで、絶好のタイミングで罠を叩き込む。
彼のことは完全に意識外にあって……油断した。
「ハル!」
俺を助けるか、レティシアと男に仕掛けるか。
そうやって少し迷った後、シルファがこちらに駆けてきた。
隣に立ち、支えてくれる。
「大丈夫?」
「なんとか……」
体の自由が効かないだけで、気分が悪いとかそういうことはない。
麻痺毒か、あるいは衰弱系か。
どれにしても、致死性の毒を盛られたわけではなさそうなので、今すぐにどうこうということはなさそうだ。
とはいえ……
「さて、これで、私がやりたい放題できるわね」
状況は絶望的だ。
俺はまともに動くことができなくて、シルファもダメージが残っているため、色々と怪しい。
一方のレティシアは、まだまだ力を残している。
パートナーの男も、なにかしら罠を隠していると考えた方がいいだろう。
こんなことで……負ける?
「っ……!?」
ドクンと、心臓が強く跳ねた。
次いで、体が燃えるように熱くなる。
この感覚は……
「ハル?」
「こんな、時に……」
シルファが心配そうにこちらを見るものの、応える余裕がない。
俺の中にある、魔王とかいう存在。
それが、少しではあるものの、目を覚まそうとしていた。
そう。
こんなことが前にもあった。
あれは、迷宮都市で、初めて魔人と対峙した時……
正体不明の感覚に飲み込まれて、意識を失い……目が覚めた時は全て終わっていた。
思えば、あの時、初めて魔王の力が覚醒したのだろう。
(このまま好きにさせるつもりか?)
得体の知れないなにかが、そう語りかけてきた。
冷たく、暗く、おぞましい感情に満ちていて……
聞いているだけでどうにかなってしまいそうだ。
(その体を貸せ。代わりに決着をつけてやる)
その声に恐怖を覚えてしまうのだけど、ただ、絶対的な信頼感があった。
この声の言う通りにすれば問題ない。
こんな状態からでも逆転することができる。
それは確実だ。
でも……
(どうした? 早く交代しろ)
イヤだ。
(自分でどうにかできると?)
わからない。
(無責任な答えだな。仲間を危険に晒すつもりか?)
そんなことはしない。
(なら、どうする?)
俺は……
どうする?
どうすればいい?
どうするべきだ?
焦りが頭の中をぐるぐると駆け抜けて、混乱してしまい、追い込まれて……
でも、俺は大丈夫だ。
一人じゃないから、大丈夫だ。
そう言い聞かせることで落ち着くことができた。
よし、決めた。
(体を貸すつもりになったか?)
違う、そんなことはしない。
というか……
逆に、あんたの力を借りる、というか、使わせてもらう!




