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305話 二度目の決闘・その5

 闘技場のリングを蹴り、レティシアに迫る。


 加速。

 加速。

 加速。


 さきほどとは比べ物にならない速度で迫る。


「っ!?」


 初めてレティシアの顔から笑みが消えた。

 若干の焦りと驚き。

 その二つの感情を顔に宿しつつ、バックステップ。

 走りながら繰り出した俺の右拳を避けてみせた。


 当たり前だけど、その一撃で終わらせるつもりはない。

 左拳、裏拳、蹴撃、体当たり……

 今、自分にできる攻撃、全部を叩き込んでいく。


 リキシルとの稽古で、魔力や身体能力を伸ばすだけじゃなくて、体術も鍛えられた。

 自分で言うのもなんだけど、それなりの実力を得たはずだ。

 技もキレもそれなりにある。


 なのだけど……


「ちっ」


 レティシアは俺の攻撃を全て回避してみせた。


 さすがにカウンターを叩き込んでくる余裕はないみたいだけど……

 それでも、一撃も喰らうことはない。

 かすることさえない。


 化け物か?


 ついついそんなことを考えてしまうのだけど……

 ふと、おかしなことに気がついた。


 レティシアの視線だ。

 視線がこちらに集中することはなくて、あちらこちらに動いていた。

 そして、俺が攻撃を叩き込もうとすると、それよりも先に、攻撃位置に視線が動いている。


 一度なら偶然と言えたかもしれない。

 でも、二度三度と続いて……

 十を超える頃には、それは確信に変わった。


 レティシアは、俺の攻撃が全て見えている。


 どんなタイミングで、どこを狙うのか?

 拳なのか足なのか?

 それだけの力を込めて、どういう動きをするのか?


 それらを全て把握しているに違いない。

 そうでなければ、ここまでの回避能力は説明がつかない。


 予知能力というべきか。

 全ての未来を把握することはできないみたいだけど……


 こと戦闘に関しては、相手が次にどんな行動を取るか、完全に把握しているみたいだ。

 時間限定で、未来予知が可能なのだろうか?


「……なんて厄介な」


 道理で俺達の攻撃が当たらないわけだ。

 レティシアからしたら、未来予知をして安全な場所を読み取り、そこへ体を逃がすだけでいい。

 そこに特別な技術なんていらない。


「でも……」

「ああもうっ、うっとうしいわね!」


 繰り返し攻撃を続ける。

 相変わらずというか、レティシアはこちらの攻撃を全て避けていた。

 予知能力のおかげだろう。


 ただ、反撃に出ることができないでいた。

 それに、若干ではあるが、避けるタイミングが際どくなってきている。


 焦りを覚えている様子で、レティシアの顔から余裕が完全に消えていた。


 限定的な未来予知ができる。

 しかし、それは完璧な能力じゃない。

 攻撃が来るとわかっていても、その攻撃がものすごく速ければ?

 逃げ場がないほどの全方位火力だとしたら?


 その時は、どうしようもないはずだ。


 レティシアが持つ能力は非常に厄介なものだ。

 でも、結界と同じように、対処できないほどの圧倒的な火力で押し込んでやればいい。


「そういうわかりやすいことなら、わりと得意だ!」

「ハルッ!」


 真正面からの激突を繰り返す。


 ここまできたら、下手な小細工は無用。

 力と技術で押し込むだけだ。


「くうっ……!?」


 初めて、こちらの攻撃がレティシアをかすめた。

 今まで全て避けられていたのだけど、そうはならなかった。


 レティシアの限界が近い。


 まあ、予知能力を破っただけで、まだ倒したわけではないのだけど……

 それでも大きな一歩だ。

 これをうまく活用して、さらに大きな打撃を……


「ハル!」


 ふと、離れたところで様子を見ていたシルファが叫んだ。

 その声の意味するところをすぐに理解することができなくて……


「え?」


 急に体が重くなり、視界が二重三重にブレてしまう。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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