304話 二度目の決闘・その4
ソウルイーター。
魔法を外に解き放つのではなくて、己の内側へ。
その力を自分のものにして、爆発的なエネルギーを得る。
俺の場合、魔力量がとんでもないらしいから……
得られるエネルギーも桁違いだ。
初級火魔法のファイアでも、魔人化したホランの結界を撃ち抜いて、互角以上に渡り合えるほどの力を得ることができた。
なら、中級火魔法のフレアブラストなら?
上級火魔法のエクスプロージョンなら?
とんでもない量のエネルギーを得ることができるはずだ。
正直、想像できない。
術式は完成しているのだけど、まだ、一度も試したことがない。
成功はすると思う。
失敗はしないはず。
ただ、反動がすごそうで、なかなか使うのをためらわれていた。
でも、ここで出し惜しみをしていても仕方ない。
レティシアは、ホラン以上の強敵だ。
今まで出会った敵の中で、最強といってもいいかもしれない。
だから。
「俺の全部をぶつける!」
セット、エクスプロージョン。
コンバート。
「ぐっ……!?」
術式を起動すると、一瞬、意識が飛んだ。
それほどまでにすさまじい熱が流れ込んできている。
いや。
自分で生み出しているというべきか?
体の中で暴れ馬を飼っているような気分だ。
ちょっとでも気を抜いたら、暴走してしまいそうで……
湧き上がる熱が収まることはなくて、むしろどんどん加速して、全身が燃えるかのように熱くなって……
「これは……10秒じゃ、足りないかも……?」
10秒で整えるつもりだったのだけど、一分くらいほしかったかもしれない。
でも、泣き言はなし。
今、シルファが一人で耐えている。
そんな彼女に応えるために、やってみせようじゃないか。
「すぅううううう……」
集中。
とにかく集中。
それと、ありったけの魔力をかき集めて、取り込んだ魔法の制御をする。
荒れ狂うような力をコントロールして、己のものとする。
「……よしっ!」
制御完了。
体の内部で魔力が暴れているものの、しっかりと抑え込むことに成功した。
これなら問題ない。
「シルファ、おまたせ」
「……ハル、12秒だよ?」
「うっ、ごめん」
「……ちょっと休憩するね」
「うん、後は任せて」
あのシルファでも、一人だと、レティシアを10秒押さえることで精一杯な様子だった。
まだ倒れるようなことはないものの、けっこう限界ギリギリらしく、後退する。
「じゃあ、今度はハルと遊んであげる。なにやら、おもしろい手品も用意したみたいだからね」
「……わざと時間を?」
「ええ、もちろん。ハルがつまらないことを企んでいるの、すぐにわかったし。っていうか、わからない方がおかしいし。頭の足りないハルが考えることなんて、お見通しなんだけど」
「……」
「途中で潰すこともできたけど、でも、それじゃあつまらないでしょ? ハルが全力を出して……それを私が完膚なきまでに叩き潰す。そうしないと意味がないわ。うん、意味がないの。それをやって、ハルの心を完全に叩き折るの。それで、もう二度と私に逆らわないように調教してあげないと。ね、わかりやすいでしょ?」
レティシアはとても楽しそうに語る。
人を傷つけることを、幼馴染の心を折ることを、笑顔で語る。
昔はそんな女の子じゃなかった。
強気で勝ち気で、男勝りなところはあったけど……
でも、全ての行動の根っこに優しさがある、キラキラと輝いていた女の子だった。
その面影は、今はない。
悪魔に侵食されて、魔人になってしまったせいで、色々とおかしくなっている。
だから……
「これ以上は、好きにさせないよ。なにもかも……全部を、好きにさせてたまるものか!」
全部、取り返してやる!




