303話 二度目の決闘・その3
「……その目、生意気なんですけど」
突然、レティシアの機嫌が急降下した。
「ハルのくせに生意気……すごく生意気!」
たぶん、俺がおろおろしたり怯えるところを期待していたのだろう。
最初はその通りになっていたけど……
でも、シルファのおかげで立ち直ることができた。
それが気に入らないらしき、レティシアは子供のようにわめく。
「あー、すごくムカつくわ。苛立つわ。これ、やっぱりちゃんと躾けるしかないわね。じゃあ……私からもいくわよ?」
防御に徹していたレティシアは、攻撃にスイッチを切り替えた。
その動きは風のよう。
瞬時に距離を詰めてきて、拳の連打を放つ。
「ぐっ」
一撃一撃が重い。
まるで、丸太を受け止めているみたいだ。
それでいて速い。
しっかりと意識を集中させていないと、見失ってしまいそうだ。
「ほら、ほらほらほら! 受けてばかりじゃ勝てないわよ?」
「この……!」
レティシアの言う通りだ。
このまま防御に徹していても勝てない。
追い込まれて、いずれ防御を突破されてしまうだろう。
でも、まだ焦る必要はない。
俺には頼もしいパートナーがいるのだから。
「ふっ!」
シルファが横から突撃してきた。
途中で、くるっと前に回転。
その勢いを乗せた踵落としをレティシアに叩き込む。
シルファはアレクの上を行く、近接格闘術の達人だ。
これならレティシアも……
「甘いわね」
「えっ」
レティシアは必要最小限の動きで踵落としを避けてみせた。
ミリ単位でシルファの攻撃を見切っている。
それは偶然ではない。
シルファはすぐに次の攻撃へ繋げるが、それもギリギリのところで回避されてしまう。
……レティシアは、シルファの攻撃を完全に読んでいた。
ありえない。
俺ならともかく、シルファだぞ?
アレクに勝った彼女の攻撃を見切るなんて、そんなこと、できるわけが……
いや。
驚くのは後。
疑問を抱くのも後。
今は目の前の事実を受け入れて、すぐに対処策を練らないと。
「二人まとめて相手をしてあげる」
レティシアは不敵な笑みを浮かべつつ、さらに攻撃を加速させた。
拳撃と蹴撃のラッシュ。
上下左右から迫る攻撃は、まるで嵐のようだ。
完全に防ぐことはできず、いくらかがヒットしてしまう。
クリーンヒットはないものの、それでも、ダメージが蓄積されていく。
反撃に出ることができなくて、亀のように体を丸くするしかない。
驚くべきは、俺だけを相手にしていないことだ。
レティシアは、俺とシルファ、交互に攻撃を繰り出している。
2対1?
それがどうかした?
そう笑うかのように、とんでもない猛攻を叩きつけてきた。
こんな無茶をすれば、普通なら体力が切れてしまうのだけど……
「あはっ、あははははは! ハルもお嬢ちゃんも、弱いわね! ねえ、ハル、本気を出しているの? 私、こんなハルに負けたことがあるなんて、信じられないんだけど! ねえねえねえええええ!!!」
レティシアの体力が切れることはない。
むしろ、より一層、攻撃が激しくなる。
「くっ」
前とは大違いだ。
いったい、どうやってここまでの力を?
認識が甘かった。
一度勝ったからと、油断していた。
まさか、レティシアがここまで強くなっているなんて。
出し惜しみをしている場合じゃない。
やりすぎてしまうとか、自分が上にいるという認識を改めるべきだ。
全てをかなぐり捨てる勢いで立ち向かわないと、レティシアに勝つことはできない。
「シルファ、10秒、お願い!」
「オッケー、任された」
今のレティシアを相手に、一人で10秒を稼ぐ。
かなり酷な話だけど、でも、シルファならできるはずだ。
俺は彼女を信じている。
一度、後退する。
そして十分な距離をとったところで、本当の切り札を使う。




