302話 二度目の決闘・その2
「いくよ」
反対側からシルファが突撃した。
二対一は卑怯?
そんなことは知らない。
勝ちを拾うことができるのなら、全力で拾いに行く。
それに、レティシアを相手に油断はできない。
有利な立場にいるのなら、それを捨てることなく、なおかつ、その状態を維持して全力で挑むべきだ。
それだけの相手のはずだ。
「むむ?」
シルファの拳でさえも、レティシアを捉えることはできない。
全て空振りだ。
完全に見切られているとは思っていなかったらしく、シルファは驚いたような顔に。
それは俺も同じだ。
シルファの技術は俺よりも数段上にある。
いや、数十段?
そんな彼女の攻撃がまったく通じないなんて……
「ハル、合わせて」
「了解!」
シルファは怯むことなく、さらに前へ出た。
嵐のごとく拳を連打。
時折、フェイントを織り交ぜて……
ここぞという場面で一撃必殺を狙い、刈り取るかのような強烈な蹴撃を繰り出していく。
そんなシルファに合わせて、俺も動いた。
シルファの攻撃を避けたタイミングで攻撃を放つ。
普通に考えて避けることはできない。
必中のタイミングだ。
それに、レティシアは回避行動をとったばかり。
体勢が崩れているため、連続で回避することは難しいはず。
あらかじめ俺の行動を読んでいない限り、不可能だ。
不可能なのだけど……
「ふふ」
レティシアは余裕の笑みを浮かべたまま、不可能を可能にしてみせた。
一撃なら偶然、まぐれと言えるかもしれない。
でも、こちらの攻撃をことごとく回避してみせた。
まるで、レティシアの都合のいい場所に攻撃を誘導されているかのようだ。
どれだけ速く叩き込もうと。
フェイントを何度も織り交ぜようと。
彼女に拳が届くことはない。
「それがハルの実力なの? 前より弱くなっているんじゃない? ふふ、やっぱり雑魚なのね」
「くっ」
あからさまな挑発なのだけど、まったく攻撃が当たらないせいで焦り、反応してしまう。
心を乱したら負けなのだけど……
こうも予想外の展開が続くと、さすがに平静ではいられない。
もっとも。
俺の場合は、相手がレティシアだから落ち着くことができない、という理由もあるかもしれないが。
「このっ!」
「はぁっ!」
シルファと同時に懇親の一撃を繰り出すものの、やはりというべきか、これも回避されてしまう。
さすがに違和感を覚えた。
いくら勇者だとしても。
いくら魔人だとしても。
ここまで攻撃が通用しないなんてこと、ありえるのだろうか?
まるで、俺達がどう動くか全て把握しているかのような……
「残念ね」
レティシアが冷たく笑う。
その瞳は鋭く。
刃のように視線が刺さる。
「この程度なんて……はぁ、がっかり。やっぱ、ハルはダメダメね。雑魚すぎて笑えてきちゃうわ。だから……私が管理しないと、ねえ?」
「っ……!」
ゾクリと背中が震えた。
なんだ、この悪意は?
ドス黒く、底が見えないほどに果てしなく……
この世の闇を凝縮したかのような強烈な悪意に、思わず体が震えてしまう。
怖い。
怖い。
怖い。
覚悟を決めてきたはずなのに、それでも、一瞬で決意が瓦解してしまいそうだ。
なんていう……
レティシアは、こんな化け物に成長していたのか?
「ハル」
「あ……」
ふと、温かい感触を覚えた。
見ると、シルファがそっと手を繋いでくれている。
「シルファがいるから大丈夫」
「……シルファ……」
「今度は、シルファがハルを助ける番。一緒にがんばろ?」
「……うん、そうだね」
シルファのおかげで恐怖は消えて、再び前を向くことができた。
感謝だ。
俺は一人じゃない。
そのことが心を強く奮い立たせてくれる。
もう怖くないぞ。




