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300話 最終日、仲間の応援

「……まさか、こんなことになっているなんて」


 控え室。

 アリスのジト目が俺に突き刺さる。


「レティシアが参戦しているなんて、聞いてないんだけど?」

「うっ……」

「でも、ハルは知っていたみたいね?」

「そ、それは……」

「どういうこと?」

「「どういうことですか!?」」


 アリスに睨まれて……

 それから、アンジュとクラウディアにも問い詰められた。


 ものすごく気まずい。

 大ピンチだ。


 でも、レティシアのことを黙っていたら、みんながこんな反応をするだろうと予想できたわけで……

 そういう意味で、この展開は自業自得といえる。


「俺も、知ったのはついこの前なんだ」

「本当に?」

「ほ、本当だよ。あれ? レティシアが参加してる? って気がついて……それから、宣戦布告されて……」

「宣戦布告、って……」

「どうするつもりですか?」


 みんなの視線が俺に集中した。

 サナとナインも……そして、シルファもこちらを見ている。


 ちゃんと戦うことができるのか?

 それを心配しているのだろう。


「大丈夫。レティシアが相手だとしても、俺は勝つよ」


 すでに覚悟は決めている。

 あの状態のレティシアとまた戦うことになったとしても……

 それでも、俺のやることは変わらない。


 リキシルとエリンのため。

 孤児院の子供達のため。

 武術大会で優勝する。


 それが、俺なりの恩返しだ。


「余計な心配だったみたいね」


 アリスが小さな笑みを浮かべた。

 俺の中の決意を感じ取ってくれたのだろう。


 アリスがきっかけになったかのように、アンジュとクラウディアも柔らかい表情に。

 仕方ない、と言っているかのようだ。


 うーん……

 よくよく考えてみると、いつも心配をかけて迷惑もかけてしまっている。

 申しわけない。

 今回のことが終わったら、みんなに対する恩返しもしたい。


「ハル」


 シルファが俺の前に立つ。

 そして、そっと拳を差し出してきた。


「勝つよ?」

「うん」


 拳と拳とコツンとぶつけた。

 そして、互いに小さな笑みを浮かべる。


 これ以上の言葉はいらない。

 俺とシルファは、確かな闘志を胸に燃やしていた。


「よし、じゃあそろそろ……」

「ハルー!!!」

「はぐっ!?」


 突然、なにやら小さいものが横から突撃してきた。

 本当に突然のことだったから避けることができなくて、直撃してしまう。


 腰、腰が痛い!?


「おいおい、大丈夫か? 俺なんかのタックルで悶えるなんて、やばいぞ? いや。俺がすごいのか?」


 エリンだった。

 メイド服姿のところを見ると、仕事を抜け出してきたのだろう。

 リキシルに言えば、素直に見学させてもらえると思うのだけど……

 聞くことをせず、先に抜け出すという選択をするところがエリンらしい。


「いきなりタックルはやめて。これから、大事な決勝戦なんだから」

「だから、俺が気合を入れに来てやったんだろ。へへ、うれしいだろ?」

「それはうれしいけどね」

「お、おう。やけに素直だな……」


 自分で言っておいて照れていた。

 こういうところは年相応で、素直にかわいいと思う。


「応援はうれしいけど、仕事を放り出したらダメだよ」

「ちげーよ。毎回、仕事を抜け出したらまずいと思って、今日は決勝だけど仕事しようと思ってたんだ。でも、リキシルが行って来い、って」

「そうなんだ」

「これは、リキシルから」


 小さな宝石があしらわれたペンダントを渡された。


「勝利のお守りだってさ」

「そっか。うん、ありがとう」

「絶対に勝てよ?」

「勝つよ」


 以前の俺なら、断言なんてできなかったと思う。

 できるだけがんばる、とか、期待を裏切らないようにする、とか。

 そんな曖昧な言葉になっていたと思う。


 でも、思いは時に力になる。

 そのことを学んだから、今は、きっぱりと断言するようにしていた。


「それと、俺からは一言だけ……ぶっとばしてやれ!」

「了解」


 エリンらしい言葉に苦笑しつつ、でも、とても気合が入った。


 うん。

 これで完璧だ。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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