表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/547

3話 実は規格外

 そのハウンドウルフは、今までの個体に比べて体が大きい。

 一回り……いや、二回りだろうか?


 とにかく、巨大だ。

 体格だけではなくて、爪と牙も三倍以上ある。


「うそ……どうして、こんなところにキングウルフが……」


 なぜか、アリスが顔を青ざめさせていた。

 どうしたのだろう?

 ただ単に、ハウンドウルフの親が現れただけなのに。


「ハルっ、あたしがなんとか時間を稼ぐから、すぐに逃げて!」

「え?」

「レベル7のあなたが敵う相手じゃない! それどころか、一瞬でやられてしまうわっ」

「えっと……」


 アリスはなにを言っているのだろう?

 なんで、慌てているのだろう?


 確かに巨大で、一見すると獰猛に見えるかもしれないが……

 所詮、ハウンドウルフだ。

 レベル5なのだから、俺たちが倒せない道理はない。


「慌てる必要なんてないだろう? こいつは、ただのハウンドウルフだ」

「え? なにを言って……」

「もしかして、アリスはハウンドウルフの親に遭遇したことがないのか? だったら、驚くのも無理ないかもしれないな。確かに大きくて凶暴そうに見えるからな……うん、驚く気持ち、わかるぞ」

「なにをわけのわからないことを……!」


 アリスはすさまじく慌てているのだけど、ホント、どうしてだろうか?


 ……ああ、なるほど。

 理解したぞ。

 これもまた、相性を試すための試練なんだな?


 巨大なハウンドウルフに驚くことなく、冷静に対処できるか?

 アリスはその部分を見極めようとしているのだろう。


 しかし、その試練は失敗だ。

 レティシアのせいで、俺は、色々とモノを知らないらしいが……

 でも、ハウンドウルフの親のことは知識にある。


 こいつは確かにでかいし、凶暴そうに見える。

 でも、所詮はレベル5のハウンドウルフ。

 これくらい、さすがにレベル7の俺でも倒すことはできる。


 あ、そういうことか。

 さっきはアリスが全て片付けたから……

 今度は、コイツを俺に倒してみせろ、という話なのだろう。


「よし。俺も多少はできるっていうところを、見せるからな」

「ハルッ!? バカな真似はよして、レベル7のあなたが敵う相手じゃないわ! 一瞬で食い殺されてしまう! あたしがなんとか時間を稼ぐから、あなたはギルドに行って、誰か応援を……」

「ファイアッ!」


 ゴォッ!!! と空気が震えた。

 巨大なハウンドウルフの親よりもさらに大きい炎が出現して、一気に飲み込む。

 抗うことなんてできない。

 骨まで焼き尽くして、その身、全てを炭に変える。


「よしっ、討伐したぞ!」

「……」

「俺も意外とやれるじゃないか……って、いけないいけない。油断は禁物。俺みたいな雑魚が調子に乗ると、ロクなことがないからな。自重しないと」

「……」

「アリス? どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも、どういうことよっ!?」

「うわっ」


 アリスがいきなり大きな声を出して、びっくりしてしまう。


「なによ、今の魔法はっ!?」

「知っているだろう? 初級火魔法のファイアだよ」

「知らないわよ!? あんなファイア、あたしは知らないわ! 普通のファイアは、手の平サイズの炎を生み出すので精一杯なのよ!? キングウルフよりも大きい炎を生み出して、一瞬で消滅させてしまうなんて……そんなのファイアじゃないわ。上級火魔法のエクスプロージョンよっ!!!?」

「そんわけないだろう? 俺なんかが、上級火魔法を使えるわけないじゃないか。あれは、初級火魔法のファイアだぞ」

「あーもうっ、なんかハルの常識がおかしいんですけど!?」


 アリスが混乱した様子で、ガシガシと頭をかいていた。

 迫真の演技……ではなくて、本気で混乱しているみたいだ。


 えっと……

 もしかして、間違っているのは俺の方?


「でも、本当に初級火魔法のファイアなんだけどな……ほら、詠唱でも『ファイア』って言っていただろう?」

「それはそうだけど……じゃ、じゃあ、ハルのファイアは上級火魔法並の威力がある、っていうこと? なによ、それ……とんでもない魔力量じゃない」

「これくらい普通だろう?」

「普通じゃないわよ!」


 おもいきり否定されてしまう。


「普通じゃない……のか?」

「少なくとも、こんなファイア、あたしは見たことがないわ。まあ……納得ね。あんな常識外のファイアが使えるのなら、キングウルフも一撃よ」

「えっと……さっきから気になっていたんだけど、キングウルフっていうのは?」

「そこで炭になった魔物のことだけど」

「コイツは、ハウンドウルフの親じゃないのか?」

「違うわ。ソイツは、ハウンドウルフが進化した個体で、キングウルフ。レベルは30よ。確かに見た目は似てるけど、中身はまったくの別物」

「……え?」


 そんなこと、知らない。

 こいつは、ハウンドウルフの親……それだけのはずだ。

 レティシアが、そう言っていた。


 いつだったか、こいつに遭遇したことがある。

 その時の俺は、今よりも積極的で、先陣を切って戦った。

 その結果、倒すことができたのだけど……

 すごい獲物を倒したとはしゃぐ俺に、レティシアが冷たく言ったのだ。


「そいつ、ただのハウンドウルフよ? 親だからでかいだけで、レベル5の雑魚。そんな雑魚を倒して喜ぶとか……ぷっ、あははは! ダメ、ハルは私を笑い殺す気? 滑稽すぎて、ホント笑えるんだけど、あはははははっ! マジで、バッカじゃないの!」


 なんて言われたものだ。

 以来、俺は調子に乗らないように自分を戒めた。

 ついでに、こいつをただのハウンドウルフと認識するようになった。


 でも……

 こいつが本当は、レベル30のキングウルフ?

 ウソだろう?


「っていうか、さっきのファイアは、本当にどういうことかしら? 勇者パーティーにいたんでしょう? なにか言われなかったの?」

「いや、なんていうか……これは普通のファイアだぞ、としか言われていないな」


 ファイアを使い、巨大な炎を生み出せるようになった時。

 俺はうれしくなり、ちょっと得意げにレティシアに自慢したのだけど……


「は? それ、子供でも使える児戯なんだけど。えっ、それで喜ぶって、ハルの精神構造は子供と同じってこと? うわー、さすがに引くわ……マジで恥ずかしいから、今日一日、他人のフリしてね? 話しかけないでくれる」


 ……そんなことを言われたんだよな。

 だから、大したことないと思っていたんだけど。


「うーん……よくわからない」

「あたしも、ハルがよくわからなくなってきたわ……」


 レティシアにあれこれと吹き込まれているから、どれが真実でどれがウソなのか……

 自分では判断できない。


 今まで、レティシアの言うことを全て信じてきたからな……

 独り歩きしたものの、いきなり頭の中の情報が修正されるということはなくて、どのように判断したらいいかわからない。


「なんか、パーティーを組むとかそれ以前に、ハルのことがものすごく気になってきたわ……」

「俺も気になってきた……」


 二人で互いの顔を見て、考える。

 そして、ほぼ同時に閃く。


「「冒険者カードだ!」」


 自分の力量がわからないのならば、冒険者カードを更新すればいい。

 そうすれば、正確な情報が手に入るはずだ。


「さっそく行こう!」

「って、ちょっと待ちなさい。素材、剥いでおかないと」

「あ、そうだな。悪い」


 魔物の素材はそれなりの値で売れるだけではなくて、討伐依頼の達成証明にもなる。

 キングウルフは炭になってしまったけれど、ハウンドウルフからは素材を得ることができる。

 アリスと手分けをして素材を回収しておいた。


「これだけあれば、更新料も払えるわね」

「え? でも、それじゃあアリスの取り分が……」

「あたしはいいわ。それよりも、ハルの能力が気になって仕方ないの。だから、気にしないで受け取ってちょうだい」

「えっと……わかった、ありがとう。今回は、好意に甘えさせてもらうよ」

「貸し一つ、ね?」

「ははっ、ちゃっかりしているな」


 自然と笑みがこぼれてくる。

 レティシアと一緒だった時は、こんなことはない。


 今、とても良い気分だ。

 これが自分の思うように動いて、自分の思うがまま感情を示す、っていうことなのだろうか?


 今までは、そんなことはできなかったから……

 今、心の底から『自由』を感じていた。




――――――――――




 その後、俺とアリスは街へ戻った。

 まっすぐにギルドへ向かい、扉を開ける。


「ようやく戻ってきたわね……ハルっ!!!」


 レティシアがいた。

本日19時にもう一度更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
レテなんとかさん予想以上に厄介そうな女の子だった…
[一言] 貴様(レティシア)ァ!何故しゃしゃりと出てきたァ!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ