296話 ひとまずの勝利
ほぼ同時に、ホランとアレクを倒して……
「そこまで! 勝者、ハル・トレイター&シルファ・クロウブラスト!!!」
審判が高らかに勝者を告げた。
一瞬の静寂の後……
ワァアアアアアアアッ!!! と会場が最大級に盛り上がる。
うん。
自分で言うのもなんだけど、シルファを含めて、良い勝負をしたからね。
そんな感じで、やりきった感はある。
まあ、ここで終わりじゃないから、気を抜いたらダメだけど。
「ハル、おつかれさま」
シルファが隣にやってきて、小さく笑う。
最近は感情豊かになってきた。
うん。
素直にかわいいと思う。
「シルファもおつかれさま。それと、アレクを相手にしてもらってありがとう。勇者の相手なんて、大変だったよね?」
「んー、そうでもないかな? 同じ体術を使うから、やりやすいね。武器を持っている相手の方が厄介だから」
「なにはともあれ……」
手を挙げる。
「どうしたの?」
「ほら、これ」
「これ?」
「やったね、っていうハイタッチをしよう」
「おー」
シルファは納得顔で頷いて、
「ほい」
「よし」
俺達は、笑顔でハイタッチを交わした。
うん、いい感じだ。
「……敵わないな」
ホランがゆっくりとこちらにやってきた。
ダメージが残っているのか、若干、足取りが怪しい。
ただ、これ以上やる気はないらしい。
憑き物が落ちたような表情をしていて、戦闘中と比べると別人のようだった。
「負けたよ。力でも、信念でも」
「……ホラン……」
「一人でできることなんて、たかがしれている……そうだな、その通りだ。子供でもわかる真理だ。そんなことを忘れていた私は、負けて当然だったのだろうな」
そう語るホランは、一気に十歳くらい老け込んだように見えた。
以前までの野望に満ちた、ギラギラとした覇気はまとっていない。
年相応の……
いや。
それ以上に老けているように見えて、もうなんの力も感じられない。
ホランは敵だ。
危険な思想を持っていて、それを叶えるためなら強引な手に出ることも辞さない。
実際にリキシルの屋敷を襲撃して、魔水晶を奪った。
やや不完全ではあるものの、魔人になった。
見過ごすことはできない。
許せるか許せないかで言えば、許せない。
でも……
「そうだね。あなたは、負けて当然だったと思う」
「……そうだな」
「でも、それは今までの話で、これからは勝つこともできるんじゃないかな?」
やり直すことができないとか、それはちょっと厳しすぎる。
取り返しのつかない過ちをしたわけじゃないから……
まだ、引き返すことができると思う。
新しい道を歩いていくことができると思う。
ホランがそうするというのなら、応援してもいいと思った。
だって、彼が抱いている夢は、自分のためじゃなくて誰かのためのものだから。
「君は……」
「なにか?」
「……いや。本当に敵わないな、と思っただけだ」
「なら、戦うのは今回で終わりで」
「そうしよう。君と戦うのは、もう懲り懲りだ」
互いに苦笑して……
それから、握手を交わした。
会場が盛り上がり、シルファもぱちぱちと拍手をしてくれる。
「なんじゃ、もうやらんのか?」
ホランはボロボロだけど、アレクはわりと元気だった。
ちらっと見ただけだけど、けっこう強烈な一撃をシルファにもらっていたと思うんだけど……
さすが、勇者。
年老いたとはいえ、その実力は確かだ。
「終わりだ。これ以上、彼と戦うことはしない」
「ふむ、つまらんのう……弟子と満足するまでやれたから、今度は、再戦を願いたいところじゃったが」
「勘弁してよ……」
なにはともあれ……
一つの山を超えることができた。
でも、レティシアという最大の問題が残されているんだよね……




