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295話 シルファの戦い・その2

 拳撃と拳撃が衝突する。

 蹴撃と蹴撃が交差する。


 シルファは、目にも止まらないようなラッシュを繰り出して……

 負けてたまるものかと、アレクはそれ以上の攻撃を繰り出していく。


 加速。

 加速。

 加速。


 二人の猛攻は一秒たりとも止まることはなく、どんどん激しさを増していく。


 それは、さながら嵐のよう。

 なにもかも飲み込んで、破壊を撒き散らす。


 シルファとアレクの戦いは誰も介入することができない。

 例え審判が試合終了を告げたとしても、止まらないだろう。


「いいっ、いいぞ!!! これほどに楽しい戦いは、久しぶり……いや、初めてかもしれん!」

「シルファは、そういうのはどうでもいいんだけどね」

「なんと、つまらん。この至福を楽しまず、なにを楽しむというのじゃ?」

「……はぁ」


 満足のいく戦いを味わうことができて、アレクは愉悦に満ちた表情を浮かべていた。

 対するシルファは、あくまでも冷静だ。

 戦いを楽しむなんてことはない。


 そもそも……


 ハルと出会う前から、戦いは嫌いだった。

 暗殺業を生業としていた時は、何度も何度も戦いを繰り返していたものの、それを良しとしたことはない。


 心を押し殺していたが、感情が麻痺していたが……

 それでも、どこかで抵抗を覚えていた。


 今ならわかる。


 戦いなんて、つまらない。

 そんなことよりも、ハル達と一緒に遊んで、おいしいものを食べた方が何倍も楽しい。

 何十倍も幸せだ。


「それなのに……」


 アレクは、戦うことだけを追い求めている。

 それ以外を必要としていない。


 それはそれで一つの生き方なのだろう。

 シルファは、アレクを否定するつもりはない。


 ただ……


「さあ、もっと戦おうではないか! 思う存分、殺し合いをしようぞ!」

「それ、迷惑だよ」


 アレクの趣味に巻き込まないでほしい。

 シルファは、心底、うんざりした。


「シルファは……」

「むっ!? さ、さらに加速するだと!?」

「シルファだよ! あなたじゃない!」


 戦うことこそが生きがい。

 そんなアレクを否定するつもりはないが、かといって、勝手に同朋認定しないでほしい。

 失礼だ。


 シルファは、もう以前のシルファではない。

 新しい生き方を見つけた。

 新しい楽しみを見つけた。


 今、幸せなのだ。

 それなのに、勝手にこうするべきと決めつけられて、戦うことを求められて……

 なんて迷惑な。


「終わりにするよ」

「くっ……!?」


 戦いしか知らない男。

 色々な楽しみを知った少女。


 差があるとしたら、その心の在り方と、視野の広さの違いだったのだろう。


「がっ!?」


 シルファの拳がアレクの腹部に突き刺さる。

 ただ殴るのではなくて、衝撃を内部に伝えるように、インパクトの瞬間に一気に力を叩きつけた。


 破壊拳。

 レベル50の武技だ。


 二人の動きがピタリと止まり……

 ややあって、アレクが膝をついた。


「いつの間にか、これほどの力を身に着けているとは……く、くははは。末恐ろしいのう……そして、将来が楽しみじゃな」

「どうでもいいよ」

「なにを言う。これほどの至福の時間、初めてじゃ……またやろうぞ」

「イヤ」


 シルファは一刀両断して、


「シルファは、それよりも甘いものを食べたいな。ケーキ、おいしいよ?」


 小さく笑い、そんなことを言うのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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