表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

295/547

294話 シルファの戦い・その1

 シルファとアレクは、演武を披露するかのように、精密な戦いを繰り広げていた。


 シルファが拳を繰り出せば、アレクはその軌道を正確に見切り、ギリギリのところで避けてみせる。

 それは偶然ではない。

 積み重ねられてきた技術の成果だということを示すように、何度も何度も避けてみせた。


 一方的にやられるわけではなくて、アレクも反撃を繰り出していく。


 シルファの攻撃を避けると同時に、軽く後退。

 自分にとって都合のいい位置へ誘導していく。


 そうすることで、シルファの攻撃のタイミングに狂いが生じてしまう。

 それを待っていたアレクは、シルファの足を払い、まずは攻撃を止めた。


 そこから、拳、拳、蹴撃と連続攻撃に繋げていく。

 それは見惚れてしまうほどに綺麗な動きだった。


 しかし、シルファも負けていない。


 痛烈なカウンターを食らいながらも、直撃は一度も許さない。

 全て拳で捌いて、あるいは回避してみせた。


 舞踏会でダンスを踊っているかのような、優雅さがある。

 アレクと違う意味で見惚れてしまう。


「やるね」

「お前もな」


 二人は一度距離、互いを睨む。

 そして、小さく笑う。


 久しぶりの師弟の対決。

 試合に勝たなければいけない、という使命感はどこへやら、二人は純粋に戦いを楽しんでいた。


 アレクは、元からバトルジャンキーではあるが……

 その弟子だったシルファも素質を受け継いでいたらしく、どこか楽しそうだ。


「酒を飲むため、ホランの誘いに乗ったが、まさかシルファと戦えるとはな。しかも、儂の想像を超えて強くなっている。ふぉっふぉっふぉ、実に楽しいわい」

「シルファも、ちょっとは楽しいかな?」


 シルファは、アレクに鍛えられた日々を思い出した。


 毎日、動けなくなるまで稽古をして、技術を身につけた。

 体を壊したり病気になったとしても、稽古が休みになることはない。


 地獄のような日々ではあるが、当時のシルファはそれを地獄と認識する常識はなくて……

 こうすることが当たり前なのだと、淡々と稽古をこなしていた。


 それに、体を動かすことは嫌いじゃない。

 痛い思いをするよりは、体を思い切り動かす方が好きだ。


 だから、シルファは他のメンバーよりも積極的に稽古に参加して、挑戦的にカリキュラムをこなしていき……

 今の力を手に入れた。


「あれはあれで、悪くなかったかな?」

「ほう、儂は教師の才能があったようじゃな」

「シルファ限定だと思うけどね」


 言葉を交わしつつ、同時に拳も交わしていく。


 何十、何百という攻撃を互いに繰り出した。

 それでも、直撃は一度もない。

 シルファもアレクも、ミリ単位で相手の攻撃を読み切り、回避していた。


 神業としか言えない。


 そんな二人の攻防に、観客達は声援を忘れて見入っていた。

 そうなってしまうくらいの迫力と魅力があった。


「いやはや、楽しいのう」

「む?」

「儂は、あちらの小僧と戦うことを楽しみにしておったのじゃが、なかなかどうして。お主も、収穫のしがいのある獲物に成長したのう」

「一応、喜んでおくね」

「さあ、もっと儂を楽しませてみせろ。思う存分に、やろうではないか!」

「うーん」


 戦いが苛烈になるにつれて、アレクのテンションは上がっていく。

 しかし、シルファはどんどんテンションが下がってきた。


 最初は楽しいと思ったのだけど……

 でも、そろそろ飽きてきた。


 こんなことは早く終わらせて、甘いものをたくさん食べたい。

 それから、ハルと一緒にのんびりと過ごして……

 並んでお昼寝をしたい。


 アレクから色々な戦闘技術を叩き込まれたものの、それはそれ、これはこれ。

 シルファは戦闘狂ではないので、戦いで快楽を得ることはない。

 それよりも、ハル達が教えてくれた『日常』を満喫する方が大事なのだ。


「シルファの好きなお菓子を食べて、お昼寝をするためにも……そろそろ、終わりにさせてもらうよ!」

「やれるものならやってみるがよい! 儂とて、拳の勇者と呼ばれた者! お主のような小娘に負けるなど、ありえぬわ!」

「おじいちゃんは、そろそろ引退して、若者に道を譲ってね?」


 シルファは、わずかに笑い、アレクに向けて突撃した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ