291話 二日目、最終戦その3
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初級火魔法の力を取り込み、それを身体能力に転換した。
その力を乗せた拳は、自惚れなんかじゃなくて、アレクが繰り出すものと同等の威力があるはずだ。
それなのに……
「すさまじいな」
「くっ」
再び防がれてしまう。
さっきは様子見ということもあり、余力を残していた。
でも、今は違う。
正真正銘、全力の一撃だ。
リキシルとの特訓で身体能力は大幅に上昇している。
レベルもいくらか上がった。
そして、ソウルイーターという技を身に着けて、それを出し惜しみなく使った。
それなのに、あっさりと防がれた。
ありえるのか?
ありえない。
拳の勇者アレクでも、ノーダメージとはいかないはずだ。
ましてや、こんなにもあっさりと防がれてしまうことは、絶対にない。
ということは……
「結界か!?」
「やはり、君は察しがいいな」
もう一度、距離を取る。
ホランは俺の言葉を否定しないで、とぼけるわけでもなく、素直に肯定してみせた。
「この力はとても便利だ。敵の攻撃を確実に防いでくれる」
リキシルも、魔人ではないけれど結界を使用していた。
魔人専用のスキルというわけじゃなくて、人でも制御可能なのだろう。
ただ、どこで覚えたか?
リキシルは魔人のことを前から知っていて、その対策として、結界の研究を行っていた。
魔人の一番厄介なところは、絶対無敵の結界だ。
結界をなんとかしない限り、一方的に蹂躙されてしまう。
そんな事態を避けるために、リキシルは結界の研究を続けて……
そして、模造品ではあるものの、自分も扱えるようになった。
でも、ホランにそんなことはできないはずだ。
魔人の存在を知っていたとしても、研究するための素材がない。
魔水晶がない。
もしも持っているのなら、わざわざリキシルのところから奪う必要がない。
彼は、いったいどんなトリックを使ったのか?
答えは一つ。
「あなたは……人間を捨てたのか!?」
魔水晶を取り込み、魔人になった。
それが答えだろう。
「正解だ。普通なら、ありえない、荒唐無稽だと切り捨てるべき考えなのに、君はまっさきにその可能性を思い浮かべた。本当に優秀だ」
「褒められても、ぜんぜんうれしくないよ」
「油断させるとか、そういう他意はないのだけどね」
どうやって、魔水晶を取り込んだのか?
魔人になりながらも、なぜ、自我を保っていられるのか?
ものすごく気になる。
特に、後者。
悪魔の魂なんてものを取り込むんだ。
普通の人なら、自我なんてあっという間に消えて、押しつぶされてしまうと思う。
レティシアのような強者でも耐えることは難しく、正常な思考を持つことは難しい。
それなのに、ホランは『自分』を保っていた。
悪魔の魂に侵食されることなく、歪められることもない。
なにかしら裏技を使ったのだろうけど……
それはいったい、どんな方法だろう?
その裏技をレティシアに転用すれば、あるいは彼女は……
「聞かないといけないことが一つ、増えた」
「私の自我のことかな?」
「わかっているのなら、話は早いね。なにがなんでも、しゃべってもらうよ」
「これは、私の研究成果の一番大事な部分でね。そうそう簡単に教えるわけにはいかないな」
「なら、強引にでも!」
結界を破る方法は二つ。
一つ目は、空間ごと切り裂いてしまえばいい。
ただ、それだとやりすぎだ。
それに、魔法を使ったことが一目瞭然となってしまうので、失格になってしまう。
俺の目的を達成するためだけなら、武術大会のことは気にしなくてもいいのかもしれないけど……
それはダメだ。
エリンのためにも、その他の子供のためにも、リキシルを領主にしないといけない。
だから、もう一つの方法で結界を突破する。
その方法は……
ありったけの力で、強引に結界を撃ち抜く!
「……セット、フレアブラスト」
中級火魔法を取り込んだ。
体が熱くなり、力が湧き上がる。
「っ……!」
実のところ、ソウルイーターは完成された技じゃない。
よっぽど油断していない限り、ミスはしないけど……
まだ限界値がわからない。
初級火魔法しか試していない。
中級火魔法を取り込むのは初めてだ。
今まで以上の力が湧き上がるのだけど……
同時に、力が暴れ馬のようになって、弾けて、四散してしまいそうになる。
これを抑えるのは、なかなかに骨が折れる作業だ。
でも……勝つために、やってみせる!




