289話 二日目、最終戦その1
「さあ、いよいよ注目の一戦の始まりです!」
観客席の手前にいるアナウンサーが、声を熱くして、叫ぶように言う。
闘技場全体に聞こえているところを見ると、声を大きくする魔道具をつけているのだろう。
「次の領主を決める。それだけではなくて、莫大な財を手に入れるチャンスの武術大会、二日目最終戦! その華々しい戦いを飾るのは、この四人だぁあああああ!!!」
俺達の入場に合わせて、明かりが向けられる。
魔法を使い、器用に照らしているのだろう。
二日目最終戦ということで、色々と凝っているなあ……
アナウンサーの人も熱を入れて、俺達の紹介を始める。
「まずはこちら……その小さな体から繰り出される拳の破壊力は、誰も想像できない。どこにそんな力があるのか!? クールにパワフルに敵を薙ぎ倒していく、リトルデストロイヤー、シルファ・クロウブラストぉおおおおお!!!」
なんか変なあだ名をつけられている!?
それと、そのノリはいったいどういうこと!?
「パートナーもまた、意味不明! 一見すると、普通の兄ちゃん。でもでもでも、だがしかし! その拳は、数多の対戦者を一撃で倒してきた! 一撃必殺! 見敵必殺! ザ・キリングファイター、ハル・トレイター!!!」
なんか俺、物騒な名前をつけられている!?
ああもう。
ツッコミが間に合わない。
「そして対戦者は……なんとなんとなんとぉっ! あのアストラス商会のトップ! その戦闘スタイルは不明! ただのカカシか、それとも不動の司令官か!? あるいは、とっておきの切り札なのかぁ!? ミステリアスクール、ホラン・アストラスぅ!!!」
ホランは、さすがというべきか……
どことなく余裕のある笑みを浮かべて、観客席に向けて手を振っている。
色々とわかっている人だ。
「そしてそしてそしてぇ!!! この人を忘れてはならない! もはや説明なんて不要! 誰もが知っている、誰もがその偉業を称える! そう、我らがヒーロー! 拳の勇者、アレク・ウェルナスぅうううううーーーーー!!!!!」
アレクの紹介と共に、会場の盛り上がりは最高潮に達した。
ほぼ全ての観客が立ち上がり、歓声や拍手を送る。
その熱量はすさまじい。
これが勇者の人気……か。
レティシアも人気があった方だけど、アレクは段違いだ。
力が全てを決める場所だからこそ、この人気なのかもしれない。
「ほっほっほ」
まんざらでもない様子で、アレクは手を振る。
すると、さらに歓声が大きくなった。
ただ、ある瞬間を境に、それらがピタリと止む。
俺とシルファが彼らを見て……
ホランとアレクがこちらを見て……
互いの視線がぶつかり、それを合図としたかのように、闘技場は静寂に包まれた。
観客達は、俺達が放つ闘気を感じたのだろう。
どこかで見ているであろうアリス達も、これから始まる激しい戦いを予感しているに違いない。
「久しぶりだね」
「……そうだね」
ホランの態度はなにも変わらない。
リキシルの屋敷を襲撃して、アレクに魔水晶を奪わせた。
その指示を出したのはホラン。
俺達がその事実に辿り着いていることは、おそらく、承知しているだろう。
その上で、いつも通りの態度を貫いてみせた。
「キミは、色々と言葉をぶつけたいだろうが……まあ、それはやめておこう。今は論戦をするのではなくて、拳をぶつけ合うべき時だからね」
「それは賛成。ただ、一つだけ言わせてもらってもいいかな?」
「なにかな?」
ホランに向けて拳を突きつける。
「あなたを叩き潰す」
「……」
ホランは目を丸くして、
「くっ……くくく」
たまならないといった様子で笑った。
肩を震わせていて……そんなにおかしかっただろうか?
それとも、バカにされているのだろうか?
「いや、すまない。バカにしているわけじゃない」
表情からこちらの考えていることを察したらしく、アレクがそう訂正した。
「キミみたいに、ここまでまっすぐ挑んでくる者は、もういないからな。それが少し楽しく……少し好ましく思っただけだ。悪気があって笑ったわけじゃない。気にしないでくれ」
「はあ……」
こうして話をすると、悪い人とは思えない。
いや……実際、悪い人じゃないのだろう。
魔水晶を奪い、その力を利用しようとしているが、それはこの街のため。
その言葉にウソはなくて、本心なのだろう。
たぶん。
でも、彼を認めるわけにはいかない。
多数のために少数を切り捨てる。
それは、統治者として正しいのかもしれないけど……
だけど、切り捨てられる方はたまったものじゃない。
その気持ちはわかるつもりだ。
だから……この試合、絶対に勝つ!
リキシルのために。
そして、俺自身のために。
「負けないよ」
「ああ、それでいい。こちらも負けるつもりなんてない」
ホランは不敵に笑うのだった。




