29話 尋問タイム
「それで……あたしに話ってなにかしら?」
無事にレティシアを見つけることができた後。
話がしたいと、ギルドの外に連れ出した。
意外というべきか、レティシアはおとなしくついてきた。
どことなく不敵な笑みを浮かべている。
あと、なぜかわからないが自信にあふれている。
「もしかして、ハルが私のところに戻りたい、っていう話かしら?」
「それはない」
「むぐっ」
即答すると、レティシアがものすごく悔しそうな顔になる。
そして小声で、「やっぱりあの女が」「もっと徹底的にやるべきね」なんていう不穏な言葉が聞こえている。
この態度。
今の台詞。
これで、ほぼほぼ確信した。
やはり、アンジュの偽者はレティシアだ。
動機はサナの言う通りなのか、そうではないのか。
いまいちよくわからないところがあるものの……
まず間違いないだろう。
「単刀直入に聞くぞ。俺たちの友達の偽者を騙り、詐欺を働いているのはレティシアか?」
「偽者ぉ? 詐欺ぃ? なんのこと?」
こちらの鋭い視線もなんのその、レティシアはとぼけてみせた。
あからさまな態度ではあるものの、こちらには証拠がない。
そのことを向こうも理解しているらしく、かなり強気な態度だ。
「本当に知らないっすか? 偽者を騙る悪いヤツがいるっす。それは、あんたなんじゃないっすか?」
「だーかーらー、聖女の偽者なんて話、知らないわよ! そもそも、証拠はあるの? 証拠は。ほら、まずは証拠を見せなさいよ」
「うぐ……そ、それは……」
「ないの? ないなら、適当なこと言わないでくれる? 勇者にそんなことを言っていいのかしら? 名誉毀損で訴えて、あんたら、破滅させてあげようかしら」
レティシアが悪い顔になる。
自分の圧倒的有利を理解しているようだ。
さて、どうしたものか?
アンジュの偽者はレティシアであることは、ほぼほぼ確信できた。
しかし、証拠がない。
レティシアも調子に乗っているみたいだから、たぶん、また犯行を繰り返すと思う。
そこを捕まえるという作戦を展開してもいいのだけど、必ずしもうまくいくとは限らない。
失敗の可能性を考えると、できる限り、この場で決着をつけておきたいんだよな。
そのための方法は……
「……確かに証拠はないな。レティシアをどうこうすることはできない」
「でしょ? ふふんっ」
「でも、俺は、限りなくレティシアが怪しいと思っている。というか、レティシア以外の犯人はありえないと思っている」
「はぁ? あんた、そんなふざけたことを言えるわけ? 証拠がないって認めてたじゃない。それなのに、そんなことを私に言っていいわけ?」
「よくないな。ただ、俺はほぼほぼ確信している」
「だーかーらー、そんなことを言うなら証拠を見せなさいよ、証拠を! でも、ないんでしょ? なら、ふざけたことを言わないでくれる」
レティシアは声に苛立ちを含ませて、それが表情にも現れていた。
腕を組み、指先でトントンと肘の辺りを叩いている。
……もう少し、煽ってみるかな?
「証拠なんて必要ないさ。俺には、レティシアが犯人だってハッキリわかっているからな」
「なんでそう言えるのよ!?」
「状況証拠を見る限り、そうとしか思えないからだ」
「はぁ? 証拠を出したかと思えば、ただの状況証拠? そんなもので、この私を犯人扱いしてるわけ? ハル、あんた、ふざけてんの?」
「いいや、ふざけてなんかいなさい。レティシアが犯人だ。それ以外の答えはありえない」
「あんたねぇ……! いくらハルでも、それ以上ふざけたこと言うのなら、痛い目に合わせてやるわよ?」
「それ、いつもしてただろ」
「このっ……!」
レティシアはギリギリと奥歯を噛む。
血走るような感じで、こちらを睨みつけていた。
そろそろだろうか?
「大体、レティシア以外にありえないんだ」
「なんでよ!?」
「犯人は、アンジュを貶めて得をする者。動機があるとしたら、レティシアだけ。俺の近くにいる女の子を排除したいっていう、嫉妬心だ」
「は、はぁ!? ハルの傍に誰がいようがいまいが、か、かかか、関係ないしっ!」
「そこでレティシアは、アンジュの名前を騙り、詐欺を行うことにした。アンジュのことをよく知らない店を探して、そして……金を払わずに、おーっほっほっほ! と高笑いをしつつ、店を後にした。そうだろう?」
「そんなバカみたいな高笑い、してないわよ! 普通にじゃあね、って言っただけよ!」
アリスとサナが「!?」というような顔になる。
ただ、レティシアは自分の発言に気がついていない様子で、怒り顔のままだ。
「で……なんで、レティシアは現場を見てきたかのように断言できるんだ?」
「……あっ」
ようやく失言を自覚したらしく、レティシアの顔が青くなる。
次いで、汗がダラダラと流れる。
「い、今のは……別に、その! なんていうか、口が滑っただけよ! たまたま、そういう言葉が出てきただけで……単なる偶然よ」
「うん、そうかもしれないな」
「え?」
あっさりと主張が受け入れられて、レティシアが怪訝そうな顔をする。
「でもさ……そもそもの話、もう詰んでいるんだ」
「な、なによ、それ……どういう意味よ?」
「俺、こう言ったよな? 俺たちの友達を騙り、詐欺を働いている者がいる、って。ソレに対して、レティシアはこう答えたわけだ。聖女の偽者なんて知らない、って。なんで、被害者が聖女であることを知っている?」
「うっ……」
「事件が事件だ。人々に動揺を与えないために、今はまだ、事件は伏せられている。極秘捜査、っていうヤツだ。それなのに、どうしてレティシアは被害者が聖女であることを知っていたのか? 答え一つ。犯人がレティシアだから……だ」
「それじゃあ、最初から私を罠にハメて……」
「さて……もう言い逃れはできないと思うけど?」
「うぐぐぐっ……!」
レティシアはとても悔しそうな顔をした。
一気に形勢逆転したことを自覚しているのだろう。
それでも、再逆転の芽はないか?
あれこれと考えているみたいだけど……
「ちなみに……アリス」
「ええ、バッチリよ」
アリスが手の平サイズの魔道具を取り出してみせた。
音声を録音できる魔道具だ。
「今の会話は、バッチリ録音してあるからな。これは、立派な証拠になるだろう」
「うぐっ!?」
「さて……観念してもらおうか?」
「……」
レティシアは、悔しそうにギリギリと歯を噛んで……
「……あーもうっ! なんで、こうなるのよ! 私の予定では、あの女が排除されるはずだったのに!」
犯行を認めるような発言をした。
「認めるんだな?」
「……ええ、認めるわ」
「なんで、こんなことをしたんだ?」
「……別に。ただの気まぐれよ。なんとなく気に入らなかったから、邪魔してやろうと思ったの」
どうやら、動機を話すつもりはないみたいだ。
まあ、その辺りの調査は冒険者ギルドに任せればいいか。
「複数の店で詐欺を働いて、迷惑をかけたこと。まずは、しっかりと店主に謝ることだな」
「は? そんなことしてないんだけど」
「この期に及んでとぼけるつもりか?」
「一つの店で詐欺をしたことは……まあ、認めるわ。でも、それだけよ。複数の場所で詐欺なんて働いていないわ」
そう言うレティシアは、とても普通の顔をしていて……ウソをついているようには見えなかった。
どういうことだ……?
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