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288話 勝ってこいや

「ハル・トレイターさん、シルファ・クロウブラストさん、そろそろお時間になります」


 あれこれと話を続けていると、係の人が呼びに来た。


 いよいよだ。

 対策はまだ練り終わっていない。


 もっともっと話し合い、しっかりとした作戦を立てておきたいのだけど……

 でも、ないものねだりをしても仕方ない。

 今できる範囲で、最大限の効果を発揮できるようにがんばるだけだ。


「ハル、がんばってね」

「がんばってください、応援しています!」

「ハルさまとシルファさまならば、必ずや良い結果を出せることでしょう」

「わたくしの応援があれば、勇気百倍ですわ!」

「それ、なんか聞いたことあるっす」


 みんなが応援をしてくれる。


 うん。

 これなら大丈夫。

 きっと、うまくいくだろう。


「おい、ハル。それと、シルファも」


 エリンに呼び止められた。


「あー……なんだ、その」

「どうかしたの?」


 呼び止めたものの、エリンは迷う感じで言葉を口にしない。

 よくわからない様子で、視線をあちらこちらに飛ばしている。


 なにか言いたいことがあるのだろう。

 そう判断して、じっと待つ。


 ややあって、エリンはこちらを見た。

 そして、拳を前に突き出す。


「勝ってこいや」

「……うん!」


 こつんと、拳と拳と軽くぶつける。


「ありがと」


 シルファも、こつんとした。


 基本、無表情な子だけど……

 今は小さく笑っている。

 きっと、エリンの想いが伝わったのだろう。


「ったく、柄にもねーことをしたぜ……」

「あ、そっか。エリンは恥ずかしがっていたんだ」

「恥ずかしがる必要なんてないよ? シルファ達、勇気づけられたよ?」

「そういう反応がイヤだからはずいんだよ!」


 怒鳴るエリン。

 でも、顔を赤くしているせいか、迫力がぜんぜんない。

 むしろ、かわいらしいと思ってしまうほどだ。


「ったく……俺にここまでさせたんだ。勝ってこいよ。リキシルも、それを望んでいる……っていうか、期待しているんだからな」

「ああ、エリンの言う通りだ。期待しているぜ」


 突然、乱入する第三者の声。


「リキシル!?」

「よっ」


 リキシルだった。

 メイドを後ろに控えていて、その人に支えられていたものの……

 わりと元気そうで、顔色はいい。


 ただ、思っていた以上にダメージを受けていたのだろう。

 一回り縮んだかと錯覚するくらい、痩せていた。

 過労といっても、かなりのものだったに違いない。


「どうして、ここに……」

「ここ一番の大勝負っていう時に、寝てられるわけないだろ。応援だよ、応援」

「だからって、そこまで無茶をしなくても」

「ハル達に無茶をさせておいて、自分だけ安全でいられるか」

「……まったくもう」


 忘れていた。

 そういえば、リキシルはこういう人だった。

 誰かのために自分を犠牲にすることができる。


 言葉で言うと簡単なことかもしれないけど、いざ、実行しようとすると、それはとてつもなく難しいことだ。

 誰もが迷い、ためらうだろう。


 しかし、リキシルは迷わない。

 ためらわない。

 そうすることが正しいと信じた場合、躊躇なく行動する。

 そんな彼女の信念に惹かれ、俺達は力になると決めたのだ。


「ハル、シルファ」


 エリンと同じように、リキシルは拳を前に突き出した。


「勝ってこいよ」

「うん」

「おっけー」


 俺とシルファは、リキシルと拳を交わして……

 そして、これ以上ないほどの決意を胸に、二日目、最終戦に挑むことになる。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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