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286話 決断

 本戦が開始された。


 俺とシルファの出番は、数えて二つ目。

 わりと早い。


 すぐに出番はやってきて、リングに登る。


「師匠ー、がんばってくださいっす!」

「ハル、やたら無闇に全力は出さないように!」

「ほどほどが一番です!」


 観客席からみんなの応援……応援なのかな?

 とにかく、背中を押してもらったような感じで、やる気が湧いてきた。


「ハル」


 隣に並ぶシルファが、小声で問いかけてくる。


「どうするか、決めた?」

「うん」


 アランとケイトが持ちかけてきた裏取り引きに対して、どう応じるか?

 迷ったけど、答えは決めた。


 シルファは納得してくれるだろうか?


「俺は……」

「いいよ、説明しないで」

「え?」

「シルファは、ハルのしたいことを応援するだけだからね。なにをしてもいいよ」

「そっか……うん、ありがとう」


 少し気が楽になった。


 そんな話をしている間に、アランとケイトもリングに上がる。

 二人は緊張した様子だ。

 それと、どこかすがるような目をこちらに向けている。


 裏取り引きのことを考えているのだろう。

 俺達に応えてほしいと、願っているのだろう。


 でも、それは……


「はじめ!」


 試合開始の合図と共に、俺は前に出た。


「……セット、ファイア」


 ソウルイーターを発動。

 初級火魔法の力を取り込んで、


「……コンバート」


 己の力とする。

 全身が燃えるように熱くなり、無尽蔵に力が湧き上がってきた。


 リングの上を駆け抜けて、アランに向けて拳を振る。

 手加減はなし。

 全力の一撃だ。


「ぐぅ!?」


 しかし、アランは耐えた。


 両手を交差させて、盾のようにした。

 それだけじゃなくて、インパクトの瞬間に後ろへ跳んで、衝撃を最大限に逃がす。


 本戦に出場しているだけあって、さすがだ。

 俺は、力任せの攻撃しかできない。

 あんな技術は持っていないから、ちょっとうらやましい。


「えいや」


 一方で、シルファは気が抜けるような声を発しつつ……

 独楽のように回転して、両手足を使った猛攻を繰り出していた。


 ケイトは槍を使い防いでいるが、こちらは反撃も回避もできないでいる。

 力、技術。

 どちらもシルファの方が上のようだ。


「このっ!」


 アランが突貫してきた。

 俺に組み付いて投げ飛ばそうとするが、素直にやられてなんかやらない。

 ふんばり、抵抗する。


「……どういうことですか!?」


 組み合い、争っていると、アランが小声で……しかし鋭い声で問い詰めてきた。


「私達は、今日を勝ち抜かないといけないんです! そうしないと賞金を得ることができず、子供が……それなのに、どうして!?」

「いや。別に、裏取り引きを了承したつもりはないんだけど」

「なっ」

「悪いけど、負けてあげないよ」

「そんなっ、子供はどうでもいいと言うんですか!?」


 アランが悲痛な表情で訴えてくるのだけど……

 それはそれ、これはこれ。

 親しい人ならともかく、知り合ったばかりのアラン側の事情を汲んでやる必要なんてない。


 そもそもだ。

 本当に子供を助けたいのなら、こんな一か八かの武術大会に出るべきじゃない。

 お金を稼ぐ方法は、他にもたくさんある。

 もっと堅実にやるべきじゃないか?


 それに……

 アランとケイトは、俺達にも望みがあることを、まるで考慮していない。

 不幸な自分達のためなら協力してくれるのが当たり前、という態度だ。

 それはどうかと思う。


 まあ……


 見知らぬ相手とはいえ、子供が苦しむところはあまり見たくない。

 言い出したらキリがないのだけど、でも、知った以上はなんとかしたい。

 だから、俺達が優勝した後で、賞金の一部を分けるつもりだ。

 それならリキシルは領主を続けられるし、賞金も得られるし、なにも問題はない。


「……ちっ、ガキを使えば簡単に勝てると思ったんだけどな」

「え?」

「こうなったら、仕方ねえ。普通に倒させてもらうぜ!」


 えーと……つまり、子供の話はウソということ?

 あるいは、本当に病気の子供はいるのだけど、治療とかはまったく考えてなくて、単純にお金がほしかった、ということ?


 うん。


「……リリース、ファイアナックル」

「ひぎゃっ……!?」


 遠慮なく、アランを殴り飛ばした。

 ソウルイーターの力を使っているから、威力は抜群だ。

 思い切り吹き飛ばされて、そのままリングアウト。


 ほぼ同じタイミングで、シルファがケイトをノックアウトした。

 たぶん、俺の様子を伺い、同じ行動をとるようにしていたのだろう。


「ダメな大人が相手なら、遠慮する必要はないよね?」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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