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283話 どこまでも

 フードの女性は木剣を構えた。

 殺し合いではなくて、武を競い合う大会であるため、真剣は禁止されている。


 木剣を構えるその姿は、どこか見覚えがあるというか……

 脳裏に焼き付いている姿と、まったく変わらないというか……


「ん? どうしたんだよ、ハル。なんか、すっげー青い顔してるぜ」

「えっと……いや、うん。大丈夫」

「ホントか? トイレでも我慢してんのか?」

「女の子がそういうことを言ったらダメだよ」


 いやーな予感がするのだけど、でも、まだそうと決まったわけじゃない。

 仮にそうだとしても、ここで取り乱すわけにはいかない。


 俺達は観客席に座っているため、向こうからこちらを見つけることはかなり難しい。

 この大勢の中から、ピンポイントで見つけることはさすがにないだろう。


 ……ないよね?


 ちょっとだけ不安になってしまう俺だった。


「おいおい、女か? ここまで勝ち上がった運の良さは褒めてやるが、それもここで終わりだぜ」


 対戦相手の男が嘲るように言う。


 その体は大きく、筋肉の鎧をまとっている。

 武器はない。

 素手で相手を制圧するタイプなのだろう。


 絶対の自信を持っているみたいだけど……


「なあ、ハル」

「うん?」

「あれ、フラグっていうんだよな? あのおっさん、負けるんだよな?」

「ど、どうだろう……?」


 フラグといえばフラグになるんだけど……

 そんなものが現実に適用されるかどうか、さすがにわからない。


 とにかくも、試合を観戦しよう。

 どちらかがライバルになるのかもしれないのだから。


「はじめ!」


 審判の合図で試合が始まった。


 男は両手を顔の前に移動させて、ガードするようにしつつ、突撃をした。


 接近する時は、しっかりと急所をガードすること。

 戦闘のセオリーを守っているところを見ると、ただ口が達者なだけではないらしい。


 変に自信をつけている人は、戦闘のセオリーを無視することが多い。

 でも、やっぱり基本は大事だ。

 アレンジするのならともかく、セオリーを無視した戦い方で勝利を掴むことは難しい。

 それを可能とするのは、一握りの者……戦闘の天才だけだろう。


 そして、彼女は天才だった。


「なっ!?」


 突撃する男から距離を取るように、女性は後ろに跳んだ。

 しかし、それは逃げるためではない。


「ふっ!」


 華麗なステップを踏んで、すぐに前へ。

 距離を稼ぐのではなくて、加速に必要な距離を確保するための後退だった。


 そして……


 爆発的な速度で加速して男に迫る。


「くっ!?」


 木剣が嵐のように、苛烈に過激に振るわれた。


 男は両腕を盾代わりにして、全ての攻撃を防ぐ。

 限界まで鍛え上げられた筋肉は、木剣程度なら弾いてしまうのだろう。


 それでも、男の顔に焦りの色が募っていく。


 女性の攻撃があまりにも速すぎるため、反撃に移ることができないのだ。

 かといって、逃げることもできない。

 後ろに下がる素振りを見せようものならば、その隙を突いて、一気に懐に潜り込まれてしまうだろう。


 前に出ることもできず、後ろに退くこともできない。


 蜘蛛の巣に囚われた蝶のようだった。

 抗う意思はあるものの、しかし、どうすることもできない。


「くっ……なめるなぁ!」


 このままでは負けると思ったのか、男は大きく吠えた。


 この状況を打開するために、あえて前に出る。

 それは賭けだ。

 勝てば状況が好転するだろうが、失敗したら敗北する。


 その結果は……


「がぁっ……!?」


 男の行動を予測していたかのように、女性は冷静に対処をして木剣を振る。

 木剣によって顎を叩かれて、男を白目を剥いて気絶した。


「そこまで!」


 男の戦闘不能を認め、審判が試合の終了を宣言した。


「勝者、レティ!」


 そして、勝者の名前を告げる。


 観客の歓声に応えるように女性は手を振る。

 その拍子にフードが脱げて……


「……ふふ」


 レティシアがこちらを見た。


 その瞳は、かつての暴君だった頃と同じで……

 いや。

 あの時以上に妖しく、暴力的な気配を宿していた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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