282話 保護者?
「ハル、おめでとう!」
「ハルさん、おめでとうございます!」
「ハルさまとシルファさんならば、必ず勝ち抜けると思っていましたわ」
控え室に戻ると、みんなの姿が。
本戦出場が決定したことを笑顔で祝福してくれる。
まだ本戦出場が決定しただけなのだけど……
優勝したかのような、そんな喜びようだ。
さすがに、ちょっと照れくさい。
「……ところで、ハルさま」
そっと、クラウディアが小声で話しかけてきた。
「……最後の試合、ハルさまはなにか妙なことをしたように見えたのですが」
「……あ、わかった?」
「……具体的なことはわかりませんが、わずかに魔力の流れを感じたので」
さすが、魔法学院元生徒会長。
ソウルイーターはまだまだ未完成なので、そんな状態では、彼女の目をごまかすことはできないらしい。
「……まあ、ちょっとグレーゾーンな技を」
「……なるほど」
深くは聞かないつもりらしく、クラウディアは納得顔に。
それから、どこか遠い目をした。
「ふう」
「どうかしたの?」
「いえ……アリスさんやアンジュさんから、ハルさまは色々ととんでもないと聞いていて、そのことはわたくしも理解しているつもりでしたが……やれやれ、まだまだですわね」
どういう納得の仕方?
なんとなく納得いかない。
「師匠、師匠! 今日の試合は終わりっすよね?」
「うん、そうだね」
「なら、みんなでおいしいものを食べに行きましょう! いっぱい応援したから、お腹がぺこぺこっす」
「いいね。シルファも、けっこうお腹が空いちゃった」
うん。サナとシルファは、食べることしか考えていないのかな?
最近、そういう言動が増えているような……
腹ペコキャラになりつつあるような気がした。
「俺は、最後まで試合を見ていくから、みんなはごはんを食べに行くといいよ。後で合流しよう」
「そうね……って、了承するわけないでしょ」
「そうです、ハルさんを置いてけぼりにするわけにはいきません!」
アリスとアンジュに反対された。
「師匠、闘技場に興味なんてあったっすか?」
「いや、興味はないけど……」
俺は平和主義者のつもりだ。
戦うところを見て楽しむ趣味はない。
「本戦で当たるライバルを観察しておかないと」
新しい力を手に入れた。
そして、シルファという最高のパートナーがいる。
アレクが相手でも負けるつもりはないのだけど……
でも、油断は禁物。
思わぬ強者が潜んでいるかもしれないし、敵情視察は必須だ。
「なら、自分達だけでごはんを食べに行くっす」
「それはちょっと……」
「どうかと思われます」
「なんでっすか!?」
アンジュだけではなくて、ナインにまで反対されてしまう。
サナには悪いのだけど、俺も二人と同意見だ。
サナは破天荒なところがあり、シルファはたまに突拍子のない行動をとり……
二人きりにさせるというのは、ちょっと……いや。かなり不安なんだよね。
「仕方ないわね、私達が一緒しましょうか」
「ですが、そうなるとハルさま一人になってしまいますわ」
「それは……」
「ふふーん、そういうことなら俺に任せな」
ドヤ顔で姿を見せたのは、メイド服姿のエリンだった。
最近では、すっかりリキシル邸のメイドになっていた。
「エリン、どうしてここに?」
「リキシルの代理みたいなもんで、俺も入場が許可されてるんだよ」
「なるほど」
エリンはまだ子供だけど……
でも、リキシルから一番信頼されていると思う。
口はちょっと悪いけど、とても優秀な子なのだ。
「俺がハルの面倒を見てやるよ。それと、対戦相手の情報も収集しておいてやるぜ」
アリス達は顔を見合わせて、
「それなら安心ね、お願いしてもいい?」
「エリンさんなら、ハルさんがやらかしても、うまくサポートしてくれると思います」
「ハルさまの暴走には、くれぐれも注意してくださいませ?」
俺の評価が超低空飛行で、代わりにエリンの評価がものすごく高い。
いや、わかる。わかるんだよ?
エリンは口は悪いけど、でも、優秀な子で……
俺は、たまにやらかしてしまう。
わかってはいるんだけど……
小さな女の子が保護者になってしまうという現実に、とても複雑な気分になる俺だった。
「えっと……じゃあ、いこうか」
「おう」
話がまとまったところで、俺とエリンは観客席へ。
他のみんなは闘技場の外に出た。
「さてと……お、ちょうど次の試合が始まるところだね」
「ここ、席が空いてるぜ」
エリンの案内で席に並んで座り、リングを見る。
リングの上で、大柄な男性が不敵な笑みを見せていた。
鍛え上げられた肉体は芸術のようで、無駄な肉は一切ない。
まるで闘神だ。
対戦者は、全身をローブで覆っていた。
フードを被っているため、顔は見えない。
ただ、体格から察するに女性のような気がした。
「えっと……?」
なんか見覚えがあるような気がするんだけど、なんだろう?




