281話 破竹の快進撃
「悪いが、優勝は俺達兄弟がいただくぜ!」
「兄弟ならではの息の合ったコンビネーションを見せてやる!」
「双竜脚」
「「ぎゃあああっ!?」」
「我らと戦うつもりか、愚かな」
「汝にも見せてやろう、深淵の力というものを!」
「破壊拳」
「「ぎゃあああっ!?」」
「俺、この大会で優勝したら結婚するんだ」
「応援しているぞ、友よ」
「呀狼撃」
「「ぎゃあああっ!?」」
――――――――――
そんなこんなで。
シルファの大活躍のおかげで、俺達は順調に勝ち進んでいた。
……というか、俺がやることがない。
ほぼほぼシルファ一人で片付いている。
いや、まあ。
それなりの稽古はしたものの、接近戦は得意じゃないから、これはこれでいいんだけどね。
シルファの足を引っ張ることなく、安心できるんだけどね。
でも……少し寂しい。
まあ、それはともかく。
次、勝利すれば本戦に出場決定だ。
武術大会は三日に渡って開催される。
初日は、多数のメンバーをふるいにかけて、本戦出場を決めるためのもの。
二日目でベスト8を決めて……
三日目、最終日に優勝者を決める。
そんなスケジュールだ。
この調子なら、本戦出場は確定的かな?
「って、いけないいけない」
油断は禁物。
もしかしたら、ホランさんとアレクといきなりぶつかるかもしれないし……
そうじゃなくても、思わぬ強者が隠れているかもしれない。
俺達が負けたら、リキシルが領主続投とならず、孤児院も潰れてしまうかもしれない。
一人で戦っているわけじゃなくて、色々なものを背負っている。
最後まで油断なくいこう。
「ハル、次の試合みたいだよ」
「うん、了解」
控え室で待機していると、シルファが呼びに来てくれた。
二人で一緒にリングへ向かう。
「「「オォオオオオオッ!!!」」」
リングに出ると、ものすごい歓声に迎えられた。
シルファの活躍のおかげで、この短時間でかなりのファンができたみたいだ。
でも……
「「「オォオオオオオオオオーーーッ!!!!!」」」
対戦相手が入場すると、俺達の時よりもさらに大きな歓声が響いた。
二十代半ばくらいの男女のペアだ。
歓声に応えるように手を振っていて、余裕がある。
「むー……うるさい」
シルファは歓声が不満なようで、ふくれっ面をしていた。
「ハル、さっさと倒そう。そして、静かなところに戻ろう」
「……そう簡単にはいかないかもしれないよ」
「なんで?」
「あの二人、見覚えがある。確か、ここを拠点に活動している、高ランクの冒険者だよ。レベル50を超えていて、次の勇者と言われているとか」
情報収集の際、そんな話を聞いた。
外見の特徴も一致するし、まず間違いないだろう。
「じゃあ、少しは歯ごたえがあるのかな?」
「油断しないように、がんばろう」
「おっけー」
シルファは相変わらずの調子だ。
まあ、急に真面目になられても困るし……
これはこれで安心できて、いい感じに緊張もほぐれるから、ちょうどいい。
「はじめ!」
審判の合図で試合が開始された。
直後、男が突撃してきた。
「悪いが、早々に終わらせてしまうよ!」
「そうそう、うまくいかないと思うけどね」
男の拳はとても速い。
それだけじゃなくて、鋭く、重そうだ。
一撃でも食らうと、けっこう危ないだろう。
ちらりと横を見ると、シルファは女性と戦っていた。
あちらはシルファが押しているみたいで、猛攻を繰り出している。
俺の方は、俺が不利。
シルファの方は、シルファが有利。
そんな感じで、妙な具合に戦力のバランスがとれて、戦いが長引いてしまう。
うーん、魔法を使えたら早いんだけど……
でも、そういうわけにはいかないか。
なら、代わりに特訓の成果を見せるとしよう。
「どこを見ている!?」
男が苛ついた様子で、拳を突き出してきた。
俺がシルファのことをちょくちょくと見ているのが気に入らなかったのだろう。
侮るつもりはぜんぜんないんだけど……
ただ、俺は武人というわけじゃないから、そこまで怒る理由がわからない。
これは戦いだ。
勝つか負けるか、その二択だけ。
そこに信念や理念が絡むことはない。
「……セット、ファイア」
リキシルに稽古をつけてもらったのだけど……
今だ結界の習得に成功していない。
ただ、代わりに妙技を身につけることができた。
魔法を外に放つのではなくて、内に溜める。
あるいは、相手が放つ魔法を取り込み、同じく内に溜める。
そして己の力とする。
その名は……魂を喰らう者<ソウルイーター>。
「……コンバート、ファイア」
「なっ!?」
内に取り込んだ力を身体能力に転換して、そして殴る。
俺の反撃を受けて、男がリングの外にまで吹き飛ばされた。
十秒以内に戻らないと失格。
しかし男は気絶しているらしく、そのままノックアウト。
ほぼ同時に、シルファも相手をノックアウトして、俺達の勝利が決まる。
「うん」
魔法を使うわけじゃなくて、そのエネルギーを糧とする。
グレーに近い技なのだけど……
なにも言われていないから、アリっていうことでいいよね?
今回は、勝つためには手段は選ばないのだった。




