280話 武術大会、開催!
いよいよ武術大会が開催された。
ホランさんのこと、アレクのこと。
奪われた魔水晶のこと。
不安要素はいくらかあり、解消できていない。
それでも、今はできることをやるだけだ。
正しいと思う道を進む。
今は、そうして道を選ぶ自由があるのだから。
――――――――――
ワァアアアアア、という大きな歓声が響いていた。
その中心にいるのは俺とシルファ。
観客席のある闘技場で戦うと聞いていたけど……
「これ、すごいね。まさか、こんなにたくさんのお客さんがいるなんて」
三十メートルくらいの円形のリング。
それをぐるりと囲むように、三段に分けられた観客席が設置されていた。
満席だ。
数えられないくらいの人がいて……
たぶん、街の半分くらいの人がいると思う。
次の領主を決めるための大会だから、注目度がとても高いのだろう。
でも、それだけじゃなくて……
単純に、街の人は大会を楽しんでいる様子でもあった。
「お祭り好きなのかな?」
「うー……ちょっとうるさいかな。あと、見世物になっているような気分。シルファ、これ、ちょっとイヤ」
珍しくシルファが眉をしかめていた。
たくさんの歓声を受けて、落ち着かない様子だ。
出会った時は、ほぼほぼ無表情だった。
でも、今はこうして、色々な顔を見せてくれている。
「うんうん」
「ハル? なんでシルファの頭を撫でているの? それと、孫を見るようなおじいちゃんっぽい目はなに?」
「なんだろうね」
色々と微笑ましい。
「さてと」
いつまでも、のんびりとしていられない。
俺達の出番なので、そろそろ試合だ。
「へっへっへ、こいつはついてるぜ」
「ひょろっとしたもやし男とガキじゃねえか。おいおい、場所を間違えてないか? ここは託児所じゃなくて闘技場だぞ?」
俺達の対戦相手は、凶悪そうな顔をした男達だ。
共に身長ニメートルを軽く超えている大男。
しっかりと筋肉がつけられていて、腕は俺の倍……いや、三倍の太さがあるかも。
「見た目で決めつけない方がいいと思うよ」
「ひゃっはっは、言うじゃねえか。おいおい、口だけは一人前か?」
「お前らが場違いっていうこと、思い知らせてやるよ。ああ、そうだ。もしも俺らが負けたら、裸で街を一周してやるよ」
「「ひゃははは!」」
チンピラのように笑う二人。
うーん、実にわかりやすいタイプだ。
「シルファ、知っているよ」
「え?」
「今のフラグだよね。シルファ達に負けるから、あらかじめそういうことを言っているのかな?」
「あー……」
言われてみるとフラグだ。
傍から見ていたら、二人の負けを強く感じることだろう。
「て、てめえ……!」
「潰す!」
シルファの無意識の挑発に、二人は怒り心頭だ。
今にも蒸気を吹き出しそうなほど、顔を赤くしている。
「では、第一ブロック、第一試合……はじめ!」
審判の合図で試合が開始された。
「「うぉおおおおおっ!!」」
二人の大男が同時に突撃をしてきた。
その迫力はさすがで、地響きがしそうな勢いだ。
ただ……
技術もなにもない、ただの突撃なので、対処のしようはいくらでもある。
「ほい」
猛牛のごとく迫る男から逃げることなく、シルファは刈り取るような蹴りを横から叩き込んだ。
そのつま先は片方の男の膝を打つ。
「おおおぉっ!?」
ビキッ、という鈍い音。
男は悲鳴をあげて転がる。
「俺もがんばらないと……ねっ!」
「ぎゃあ!?」
シルファを真似て、もう一人の男の膝を蹴り抜いた。
相方の行動を再現するかのように、同じく悲鳴をあげてリングに転がった。
これだけ大きく、体重があれば、その体を支える膝が弱点になる。
そのことをすぐに見抜いたシルファは、さすがだ。
「勝者、ハル&シルファー!」
審判が俺達の勝利を告げる中、シルファが感心した様子でこちらを見る。
「さすがだね、ハル」
「え、なにが?」
「真正面から膝を蹴り抜くなんて、なかなかできることじゃないよ。普通は、相手の勢いに負けちゃうからね」
「そ、そうなの……?」
「うん。下手をしたら止めることはできなくて、そのまま吹き飛ばされていたと思うよ。それで、リングアウト。でも、そんなことにならないように、ちゃんと計算していたんだね。シルファも、そういうところ見習わないと」
「あ、あはは……」
言えない。
特に考えることなく、シルファの真似をしてみただけなんて、そんなことは言えない……
次回の更新は、来週月曜になります。




