28話 捜索開始!
アンジュの偽者を探すべく、俺とアリス、それとサナは街に出た。
アンジュとナインは留守番だ。
ジンの言う通り、ここで下手に動いて妙な容疑をかけられても仕方ない。
自分にかけられた不当な疑いは自分の手で晴らしたそうにしていたのだけど……
ここは我慢してほしい。
代わりに、必ず俺がなんとかする、と約束した。
その際、ついつい勢い余って、アンジュの手を握ってしまった。
アンジュはあたふたとして顔を赤くしていたのだけど……
俺の軽率な行為に怒っていたのかな?
後で謝っておいた方がいいかな?
「ハルってば……そういうところは、ダメよ」
「師匠……そっち関連は、ダメダメっすね」
そのことを話したら、なぜか揃って二人に呆れられてしまった。
それはともかく。
「軽く聞き込みをしてみたけど、やっぱり簡単には見つからないか」
いくつかの宿。
それと商店を回り聞き込みをしてみたのだけど、聖女を名乗る偽者に関する情報を得ることはできなかった。
用心深いヤツなのか。
それとも、俺たちの情報収集能力が不足しているのか。
どちらなのか、それはまだわからない。
「こういう時のお約束だと、自分たちは聖女っす! だから崇めなさいっす! とかなんとか自慢してるところに遭遇して、天誅っす! っていうパターンが多いっすよね」
「さすがに、そんな都合のいいことはないんじゃないか……?」
「というか、サナって、なんでそんなに人の物語とかに詳しいのよ……?」
「元々、それなりに人間に興味があったっすよ」
サナ曰く……
ドラゴンにもなれば、その力故に恐れられ、近づいてくる者がほぼほぼいないらしい。
伝説のエンシェントドラゴンともなればなおさらだ。
サナは寂しかったらしい。
いかに強い力を持っていても、心は普通の女の子。
孤独に耐えられず……
それをごまかすために、人の書いた物語を読むようになったらしい。
そして……魅了された。
なんておもしろいのだろう。
なんて心踊るのだろう。
そして、サナは人間に強い興味を持つようになった。
どうにかして、人間と近づきたい。
色々な話をしたい。
そんなことを思い、アーランドの近くのクレスト山を根城にしたらしい。
しかし、逆に恐れられることになり、凹んでいたらしい。
「そこに師匠たちが現れて……自分は思ったっすね。これは運命だ、って!」
「そっか……サナも苦労してたんだな」
「ふぁっ!?」
頭を撫でると、サナは奇妙な声をあげた。
顔が赤くなる。
「あ、あの……師匠? わんこみたいな扱いは……」
「あっ……ごめん。なんか、つい」
「や、やめないでいいっす!」
手をどけようとしたら、必死に止められた。
「むしろ、もっと撫でてほしいっす! 師匠のなでなで、気持ちいいっす!」
「そうなの?」
「はいっす!」
「じゃあ……なでなで」
「ふにゃあ~」
竜が猫になっていた。
こうして言葉を交わすことで、サナのことをきちんと知ることができた。
なにを考えているのか?
どんなことを思っているのか?
深く感じることができたと思う。
……俺とレティシアも、きちんと話し合うことで、互いを理解できるのだろうか?
もしかしたら、昔のように笑い合う関係に戻ることができるのだろうか?
ふと、そんなことを思った。
「師匠?」
「……いや、なんでもないよ」
今更の話か。
「偽者、どこにいるんだろうな」
「そうね……あたしたちの推測が正しいとしたら、一回で終わらないわ。また犯行を繰り返すはずよ」
「狙われるとしたら、小さい店っすね。大きいなところは目立つっすからね」
サナが補足するように、そう言う。
俺も二人に続く。
「なおかつ、この街に来て間もない人が狙われる可能性が高いと思う」
「師匠、それはどうしてっすか?」
「長く住んでいる人なら、アンジュの顔くらい知っているだろう? 領主の娘で、しかも聖女なんだから。そのことを考えると、騙されるっていうのは考えにくい。なら、狙われるのは、街に住んで浅い人だ。そこら辺は、レティシアの立場なら色々と調べる方法があると思う」
ギルドなどへ行き、転居届を見せてくれと言うだけでいい。
「なるほど、さすが師匠っす! 自分は、そこまで考えていなかったっす」
「そうなると……あたしたちも、街に住んで浅い人の住所を調べた方がいいのかしら?」
「できるのかどうか、謎ではあるな。俺たちは勇者でもなんでもなくて、普通の冒険者だから」
「普通の冒険者は、フレアブラストで山を吹き飛ばさないと思うわよ」
「普通の冒険者は、フレアブラストでドラゴンを屈服させないと思うっす」
二人してツッコミを入れられてしまう。
違う。
今のは、そういう意味で言ったわけじゃないのに。
「そ、それはともかく」
「「話を逸らした」」
最近、二人の息がぴったりだ。
意外と相性が良いのだろうか?
「俺たちの推理が外れている、っていう可能性は、この際除外してしまおう。もちろん、外れている可能性もあるんだけど……それを気にしていたら動けなくなってしまう。だから、まずは推理が正しいという前提で動いた方がいいと思う」
「推理が正しいっていうと……レティシアが犯人っていうことね?」
「うん。だから、偽者の犯行現場を押さえるんじゃなくて、レティシアを探し出そうと思う」
レティシアは勇者だから、広く顔を知られている。
一般の人全部が知っているわけではないが……
冒険者ギルドやその関係者ならば、まず、知らないということはないだろう。
だから、冒険者ギルドを尋ねればいい。
「二人共、異論は?」
「ないわ」
「ないっす」
「よし。じゃあ、冒険者ギルドで情報を集めよう」
こうして、俺たちはアーランドの冒険者ギルドへ足を運んだ。
以前の街と違い、かなり大きい。
少し緊張しながらギルドの扉を開けると、
「おおっ、さすが勇者さまだ!」
そんな称賛を浴びているレティシアの姿があった。
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