277話 真意を確かめるために
その日から、何度も何度も稽古を重ねた。
みんなに協力してもらい、シルファとの連携の精度を高めていく。
同時に、俺の体術、接近戦の技術を高めていく。
大幅なパワーアップは不可能。
でも、シルファの足を引っ張らないで……
サポートするくらいには進化できるはずだ。
そう信じて稽古を続けた。
そして時間が流れて……
武術大会、三日前。
――――――――――――
「まるで、お祭りみたいだなあ」
大会が近づくにつれて、街の活気がどんどん増していた。
街の人々は笑顔が多くなり、それと露店も増えた。
大会というよりはお祭りだ。
ただ、大会を目当てに他所からたくさんの人がやってくるみたいで……
観光要素も兼ねているため、お祭りと言っても間違いではないのかもしれない。
「さてと」
可能なら街を見て回りたいのだけど、やらないといけないことがある。
楽しそうな町並みに心惹かれつつ、俺は目的地へ向かう。
そして、三十分ほど歩いたところで目的地に到着した。
その目的地というのは……ホランさんの屋敷だ。
約束はしてある。
使用人さんに声をかけて、部屋に案内してもらう。
待つこと少し、ホランさんが姿を見せた。
「すまないな。約束の時間を少し遅れてしまった」
「いえ、気にしてません。ホランさんは忙しそうなので、こうして会ってもらえただけでもうれしいです」
「そう言ってもらえると助かる。さて……」
対面のソファーに座り、ホランさんは一服。
それから、鋭い目をこちらに向ける。
「大事な話があると聞いているが、なんだろうか?」
「ホランさんは、どうして、強引に魔水晶を手に入れたんですか?」
「はて、なんのことだろうか」
当たり前だけど、とぼけられてしまう。
こちらも証拠があるわけじゃないから、あなたが犯人だ、と決めつけて話をすることはできない。
ただ、少しでも俺に興味をもってもらうため、情報を引き出すため……
あらかじめ考えておいたことを口にする。
「ホランさんは、とても博識な人だと思う。次期領主と噂されるほどで、あと、商人としても成功している」
「おだててもなにも出ないぞ?」
「だからこそ、魔水晶なんてものに手を出す理由がわからない。ホランさんなら、アレがどういうものが知っているはずだ。とても危険なものだって、気がついているはずだ」
「ふむ」
「それなのに手を出した。なぜか? その理由を知りたいです」
ホランさんは、じっとこちらの目を見た。
しばし、視線が激突する。
ややあって、先にホランさんが視線を逸らす。
「その目的を聞いて、キミはどうするつもりかな?」
「敵にもなるし、味方にもなる。聞かないと、なんとも言えません」
「都合の良い答えだな」
「でも、本心なので」
色々と無茶をしている人だけど……
でも、悪人には思えない。
彼が領主になると孤児院が潰されてしまうかもしれないし、他にも不利益を被る人が出てくるかもしれない。
でも、単にいじわるでそうしているわけじゃない。
この人なりに街のことを考えた結果なのだろう。
だから、今回のこともそれなりの理由があるはずだ。
それを知りたい。
「仮に、の話になるが……」
「はい」
「深い理由はない。目的は、力を手に入れることだ」
その話が本当なら、ただの小悪党ということになるのだけど……
「ホランさんは、力を手に入れてどうするつもりですか?」
その先を知りたい。
「ふむ……大抵の者は、力を欲していると知れば、そこで話が終わり、私を蔑むものだけど……キミは違うみたいだな。きちんと最後まで話を聞くという、理知的な判断ができている。その若さで、なかなかできることじゃない」
「ありがとうございます……?」
「キミとの話は楽しいな。その礼に、私の目的……力を得てなにを果たすか? それを教えることにしよう」
ホランさんは、再びタバコを取り出して一服した。
そうすることで、気持ちを落ち着けているように見えた。
「私が力を求める理由は単純だ。より強大な力を持つ者に対抗するため、だな」
「それは……」
魔水晶を必要とするほどの敵。
魔人以外に考えられない。
「キミなら知っているだろう? この世には、手も足も出ない相手がいるということを」
「……はい」
「連中のことを知ったのは偶然だが、その偶然に私は感謝した。その敵の存在に、恐怖に震えたこともあるが……なにも知らず、突然、災厄に巻き込まれるよりはいい。なればこそ、今から災厄に備えるべきだ」
「つまり……そのために、魔水晶の力を求めた? 領主になりたいのは、より多くの力をつけるためで……リキシルのことは信用していない。ううん。頼りない、って思っている?」
「ほぼほぼ正解だ。キミは優秀な生徒だな」
ホランさんは小さく笑い……
続けて、苦い顔をする。
「彼女は……リキシルは甘い。魔水晶というものを手に入れておきながら、利用するのではなくて、誰にも触れられないように封印してしまう。力はもっと有効活用するべきだ」
「それは……」
「それに、余計な金を使っている。孤児院などが、いい例だ。子供達を守ることは立派ではあるが、しかし、街そのものが滅びたら意味がない。今は、将来の災厄に備えて、ありとあらゆる軍備を拡張するべきだ」
「それが、ホランさんの目的……やるべきこと、ですか」
「そうだ。私は、私のやり方こそが正しいと信じている」
そう断言するホランさんの瞳には、迷いは欠片もなかった。
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