２７６話　改めて二人で

　リキシルの代打として、俺が武術大会に出場する。

　それに対して、アンジュだけではなくてナインも渋い顔をした。

　まあ、わかる。

　今では、俺はそこそこ魔法は得意という自信を持つことができたけど……

　でも、体術及び接近戦は微妙だ。

　あまり得意じゃない。

　サナの方がいいのでは？　という意見も出たのだけど……

　それは、まあ……うん。

　色々な意味で不安なので、やめておいた。

　アリスが出場するという手もあるんだけど……

　ただ、シルファとの相性が一番良いのは俺だと思う。

　相手の考えていることがなんとなくわかるというか、連携を取りやすい。

　なので、みんなを説得して俺が出場することにした。

「よし！」

　武術大会まで二週間。

　時間がないから、毎日稽古をしないと。

「リキシルのためにも……あと、エリンのためにもがんばらないと」

　リキシルは良い領主だと思うから、素直に彼女を応援したい。

　あと、ホランさんが領主になった場合、リキシルの私費で運営されている孤児院のことが気になる。

　もしも援助が断ち切られたら？

　その場合、エリンを始めとした子供達はどうなる？

　そのことを考えると、リキシルに続投してほしい。

　ホランさんも悪い人じゃないと思うんだけど……

　合理的なところがあるから、そこがどういう影響を周囲に及ぼすか不安なんだよね。

「シルファ、がんばろうね」

「おっけー。シルファ、がんばるよ」

　一見すると適当な返事だけど、これがシルファのデフォルトだ。

　というか、ちょっと声のトーンが高いところを見ると、やる気があるのかもしれない。

「というわけで……訓練の相手、頼むよ」

「まあ、それはいいんだけど……」

　アリスが微妙な顔をして相方を見る。

「任せてくださいっす！」

　相方のサナはドヤ顔を披露していた。

　ハッキリ言ってしまうと不安しかない。

　サナって、やらかすことが多いからなあ……

　アリスも同じ気持ちらしく、相方で大丈夫？　なんていう顔をしている。

「まあ……とりあえず、軽く戦ってみましょうか。スキルあり、魔法ありのなんでもで。本番では魔法は禁止だけど、今は相性とかを確認する、っていう意味で」

「うん、了解」

　どれだけ動くことができるのか？

　どれだけ相手の考えていることを戦闘中に理解することができるのか？

　まずは、そういったことを確認しておきたい。

「ハルさま、がんばってくださいませ」

「アリスさんもがんばってください」

　訓練場の端でクラウディアとアンジュが応援してくれる。

　本当は、リキシルも見学したかったらしいのだけど……

　まだ怪我が治っていないので寝たままだ。

　無理をしてでも見に来そうな雰囲気があったため、エリンに見張りを頼んでいる。

「じゃあ、いくよ」

「ええ、いつでも」

　互いに鋭い視線をぶつけあい……

　そして、同時に床を蹴る。

「ファイア！」

　まずは先制とばかりに、魔法を唱えた。

　炎の津波がアリスとサナに襲いかかる。

「甘いっす！」

　アリスが足を止めて、代わりにサナが前に出た。

　自慢の豪腕を振るい、俺の魔法を殴り払う。

　でも、それは予想済み。

「おわっ！？」

　炎の波を隠れ蓑にして、シルファが前に進んでいた。

　サナからしたら、炎の中にシルファが隠れていたように見えるだろう。

「双竜脚！」

「おわっ、あわっ、ひゃあああ！？」

　シルファはくるっと独楽のように回転して、連続して襲撃を叩き込む。

　サナは避けることができず、両手を盾のようにして縮こまることしかできない。

「サナ！」

　アリスがフォローに回ろうとするのだけど、それも読んでいた。

　進路を塞ぐようにして、木剣を振る。

　アリスは足を止めざるを得なくなり、同じく木剣でこちらの攻撃を受け止めた。

　競い合う形になり、至近距離でにらみ合う。

「私とサナを分断して……ちょっと、ハル。シルファとの連携はこれが初めて？　あらかじめ打ち合わせしていたんじゃないの？」

「初めてだよ。ぶっつけ本番。でも、これくらいはできる」

　相性がいいだけじゃなくて、ずっと一緒にいた。

　だから、なんとなくだけど相手の考えていることがわかる。

　そう……俺とシルファは、良いパートナーになれると思う。