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273話 勇者との因縁

 シルファは、迷宮都市の裏組織に拾われた。

 そこで暗殺技術を叩き込まれたのだけど……


 その時、アレクから手ほどきを受けたことがあるらしい。

 アレクはお金目的でシルファと他数名を弟子として、一年ほど拳術を教えていたのだとか。


 勇者が裏組織に協力するなんて、とんでもない話だ。

 とんでもない話なのだけど……

 アレクなら、そういうことを気にすることなく、教えちゃうんだろうなあ……と思う。


 一度顔を合わせただけだけど、あの人、常識が欠如しているような気がした。

 だから、いきなり腕試しをしてくるし……

 裏組織に協力したりしてしまうのだろう。


「うーん……勇者って、常識ない人が多いのかな?」


 一通りの説明を聞いて、そんなことを思ってしまう。


 すると、シルファがやれやれとため息をこぼす。


「ハルにそれを言われたくないと思うよ」

「え、どういう意味?」

「そういう意味かな」


 どういう意味だろう……?

 頭の中で、そうやって二度目をつぶやいてしまう。


 そんなことを話している間に、シルファの案内で酒場にやってきた。


 まだ昼なので、それほど人は多くない。

 ただ、ランチサービスを求める客がいるため、空っぽというわけでもない。


 やっぱり、酒場が賑わうのは夜だ。

 一日の疲れを癒やすため、夜になって飲みに来る人が多い。


「シルファ、こんなところに来てどうするの? もしかして、お腹空いた?」

「サナじゃないから、そういうことはないかな。シルファ、腹ペコキャラじゃないし」

「それもそうだね」


 失礼な感想を口にしつつ、店の中へ。

 すると……


「ぷはぁ……んぅ、いいのう。やはり、酒は命の潤滑油じゃな」


 アレクがいた。

 片手にお酒が入ったジョッキ。

 右手におつまみらしきポテト。


 交互に口に運びつつ、幸せそうな顔で笑っている。

 その顔は赤く、かなり酔っていることがわかる。


「ね、いたでしょ?」

「こんなところに……」

「アレクは大の酒好きだからね。一仕事終えたのなら、きっと飲んでいると思ったんだ」


 本当にアレクがやらかしていたのなら、指名手配されてもおかしくはない。

 それなのに、堂々と姿を見せているなんて……

 しかも、昼間から酒を飲んでいるなんて……


 とんでもない度胸の持ち主だ。


「ううん。ただ単に、アレクは後先考えないバカなんだと思うよ」


 俺の考えに、シルファがそんな訂正を入れた。

 身も蓋もない言葉だ。

 でも、それが正しいんだろうなあ。


 飲んだくれと化しているアレクを見ると、そう思う。


「やっほー、アレク」


 シルファは物怖じすることなくアレクのところに行き、声をかけた。


「ん? なんじゃ、お主は?」

「シルファはシルファだよ。忘れた?」

「シルファ……おおっ、お主、シルファか!」


 最初は不思議そうな顔をしていたものの、一時的に物忘れをしていただけらしい。

 懐かしそうな笑顔を浮かべて、アレクは楽しそうにする。


「おや? よく見ると、先日の小僧も一緒か。また手合わせをするか?」

「しないよ」

「かかか、それは残念。酔った状態で戦うのも、それはそれで楽しいのじゃが」

「えぇ……」


 この人、とんでもないバトルジャンキーだ。

 戦い以外のことはまるで考えていないように見える。


「シルファよ、元気でやっておったか? あれから腕を磨いておるか?」

「元気だよ。腕はそれなりかな」

「ほう、それなりか。しかし、相当に強くなっているな。強者の気配を感じる」


 アレクが不穏な気配をまとう。


 まさか、シルファと腕試しをするつもりか?


「シルファは戦わないからね」


 アレクの考えをいち早く察したシルファは、そう断った。

 きっぱりと言い切っている。


 そんなシルファの様子に、脈なしと諦めたのだろう。

 アレクはすんなりと引いて、不穏な気配を消してみせた。


「なんじゃ、つまらないのう」

「シルファは、別に戦いが好きなわけじゃないからね」

「ほう。戦いしか知らぬ小娘が、他の生き方を見つけたと?」

「見つけてないよ。ただ……」


 シルファが、ちらりとこちらを見た。


「ハルと一緒なら、見つけられそうな気がするかな」

「ほうほう、それは楽しみじゃな」


 シルファの成長、変化を感じ取ったのだろう。

 アレクはうれしそうに笑う。


 この人、こんな顔もできるのか。

 師弟の関係だったと聞いているし……

 少しはシルファのことを気にかけているのかもしれないな。


「なら、今日はどうしたんじゃ?」

「聞きたいことがあるんだけど、アレクが魔水晶を盗んだ?」

「うむ、盗んだぞ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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