272話 思わぬ繋がり
「犯人は、ホランさんを含めて候補はあるんだけど、断定はできない状態……っていうことでいいんだよね?」
「ああ、そうだな」
もう一度、現状を確認する。
改めて見直すことで、新しい情報を得られるかもしれないからだ。
「仮にホランさんとして、実行犯は誰なんだろう?」
「師匠、どういうことっすか?」
「俺が見た限りだけど、ホランさんは武闘派じゃない。そこらの人に負けないとは思うけど、でも、この屋敷に突撃してお宝を盗むなんてことはできないと思う」
「なるほどー」
「だから、実行犯は別なのかな? って思うんだ。例えば、アレクとか」
彼は勇者の称号を持つのだけど……
ちょっと人格がアレだ。
強敵と戦う機会を作るから魔水晶を盗んでこい。
そんなことを言われたら、よしわかった、と引き受けてしまいそうな危うさがある。
「アレク?」
ふと、シルファが口を開いた。
なにやら興味ありそうな感じで、じっとこちらを見ている。
「それはもしかして、拳の勇者って言われている、アレクのこと? おじいちゃんで、でも、戦うことがなにもよりも大好きな変人」
「変人、って……」
シルファ、いつになく辛辣だなあ。
いつも無表情の彼女なのだけど、今は言葉の端から嫌悪感がにじみ出ていた。
こんな顔を見せるのは珍しい。
「まあ、正しい認識かな?」
「そのような方が勇者をやっているんですの?」
「レティシアもあんな感じだったし、勇者って問題児の集まりなのかしら?」
クラウディアとアリスが苦い顔に。
うん、気持ちはわかる。
俺も、やれやれとため息をこぼしたいところだ。
「って……」
さっきのシルファの言い方。
それはつまり……
「シルファは、アレクのことを知っているの?」
「知っているよ。アレクはシルファの師匠だからね」
「えっ」
思わぬことをさらりと告げられてしまう。
「それは……アレクがシルファに戦い方を教えた、っていうことでいいんだよね?」
「うん、そうだよ。それ以外に聞こえたかな?」
「いや、そんなことはないけど……こんなところでアレクとの繋がりが出てくるなんて、ちょっと予想外すぎて」
シルファは、リキシルのパートナーとなり武闘大会に出場することになって。
そして、ライバルであるアレクとは師弟関係。
うーん……すごい偶然だ。
必然的なものというか、仕組まれていたようなものを感じるのだけど……
でも、さすがにホランさん側も俺達の来訪を予期することは難しいはず。
だから、これは妙な運なのだろう。
あるいは、運命というべきか。
「あいつの弟子っていうなら、アレクの野郎がどこにいるか知らないか? あいつ、住所不定で、あちらこちらをフラフラしてるんだよ」
やれやれという感じで、リキシルがそう尋ねた。
ホランさんに雇われているのだから、ホランさんに聞いた方が早いのでは? と思うのだけど……
そういうわけにはいかないらしい。
まあ。
彼が黒幕だった場合、素直に教えてくれるわけがないから、意味のない仮定ではあるのだけど。
「んー」
シルファは腕を組んで考える。
頭をふらふらさせているのは、考える時の癖だろうか?
「街の地図はある?」
「これだ」
用意周到。
突然の要求にも関わらず、リキシルはすぐに地図を用意してみせた。
「……」
じっと地図を見つめるシルファ。
ややあって、いくつかの箇所を指差した。
「ここら辺の家が怪しいかな? 街の中心部から離れてて、でも、離れすぎていない。アレクは、こういうところが好きだったかな? あと、町外れにある宿。静かなところが好きだったから、こういうところにいそう」
「なるほど……おい」
リキシルは部屋の端で控えていたメイドを呼んで、なにかを命令した。
たぶん、今すぐに捜査するように言ったのだろう。
「あとは、シルファが直接探してみるのが一番かな? アレクがいそうなところ、見ればなんとなくわかるかも」
「悪い、頼んでもいいか?」
「おっけー」
アレクが犯人と決まったわけではないのだけど……
今は他に確かな情報がない。
ある程度は推測でものを進めていくしかない。
「じゃあ、さっそく行ってくるね」
「え? 今から?」
「善は急げ、だっけ? ほら、そんな感じ」
ちょっと使い方が違うような?
「ハルも一緒に来て」
「俺も」
「うん。ほら、行こう?」
「わっ」
腕を引かれ、強引に連れて行かれてしまう。
反対するつもりはないんだけど、シルファにしてはやけに強引だ。
「ねえ、シルファ。俺の勘違いならごめんなんだけど……もしかして、アレクとなにか因縁のようなものがあるの?」
「あるよ」
さらりと、シルファは答えるのだった。
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