271話 もう一つの役目
「「「魔水晶を盗まれた!?」」」
俺とアリスとクラウディアが叫んで、
「ど、どうしましょう……?」
アンジュは、あわあわと慌てて、
「ナインは冷静っすね」
「慌てても仕方ありませんので」
「そうそう。のんびりいかないとね」
ナインとサナとシルファは、わりとのんびりとしていた。
シルファの言うことはもっともなんだけど……
でも、のんびりしすぎもどうかと思う。
「リキシルは、魔水晶のことは知っているんだよね?」
「ああ。悪魔の魂が封印されているヤツだろ」
やっぱり、知っていたか。
ただ単に、綺麗な宝石だから、という理由で保管している可能性もあったんだけど……
リキシルは抜け目がないから、それはないと考えていた。
でも、謎が増える。
なぜ、魔水晶なんてものがここに?
その疑問を察したらしく、リキシルは説明をしてくれる。
「魔水晶の管理も領主の仕事の一つなんだよ」
「どういうこと?」
「悪魔の魂が封印されたもの。とんでもなく厄介で危険なものだ。正直なところ、手放したいところだが……それは所有者の責任を放棄するものだろ?」
「それは、まあ」
そう考えることができる人は、なかなかいないと思うのだけど……
リキシルだから、なのかな?
「歴代の領主は、アレを管理してきたんだよ。本当ならぶっ壊したいところだが、その方法がわからない。下手に手を出して、封印が解けるなんてことになったら目もあてられないからな」
「だから、宝物庫で保管していた?」
「ああ。誰にも手を出させないようにして、保管し続ける……あたしが取れる手は、それくらいだな」
なるほど、と納得できる話だった。
言い換えれば、特大の爆弾が手元にある状況。
非常に強力な武器になるのだけど、しかし、扱い方を間違えれば自身にダメージが向いてしまう。
厄介なので処分しようとしても、下手したら爆発してしまう。
なんて厄介な。
「うん。なんとなく状況は理解したよ」
「信じてくれるのか?」
「もちろん。リキシルは、そういうウソはつかないと思うから」
俺がそう言い……
他の皆も、同意するように頷いた。
リキシルはちょっと照れたように、ちょっと感動したように、鼻の下を指先でなぞる。
「犯人の目的は……やっぱり、魔水晶だよね?」
「だろうな。他のものは全部無事だ。魔水晶だけ盗られた」
「誰なんだろう……? それと、その目的は……?」
リキシルのところに魔水晶があることを知っている人物。
「心当たりは?」
「……相当、数は絞られるな。あたしの側近と、前領主。及びその関係者。あと……ホランだな」
「ホランさんが?」
「あいつも領主を目指してるからな。魔水晶の情報も、たぶん、手に入れているだろう」
「……」
こんなことをする人には見えなかったのだけど……
俺の目が曇っていたのかな?
それとも、犯人は別にいる?
「どちらにしても」
話をまとめるように、アリスが強い口調で言う。
「放っておくことはできないわね。盗まれたものがものだけに、すぐに解決しないとダメよ」
「うん、そうだね」
下手したら悪魔が復活してしまう。
新しい魔人が誕生してしまう。
犯人がなにを狙っているか、それはわからないけど……
魔水晶なんてものを目的としている以上、ろくでもないことを企んでいるに違いない。
「うーん……こんなにも厄介なことが起きるなんて」
「ハルらしいね」
「シルファ、それはどういう意味?」
「ハルは、よくトラブルに巻き込まれているから。トラブルマスターだね」
「そんな称号、いらないよ……」
でも、シルファの言葉を否定できないところもある。
魔王の生まれ変わりのせいなのか……
それとも、単純に運が悪いのか……
色々なトラブルに巻き込まれることが多い。
まあ。
そういう星の下に生まれたのだろう、と納得しておこう。
「ハル、こんなことお前に頼むなんて心苦しいんだが……」
「うん、わかっているよ。魔水晶を探して、取り返せばいいんだよね?」
「……悪い」
「謝らないで。あながち、俺も無関係とは言えないから」
魔水晶が関わっているのなら、ある意味で都合が良い。
リキシルの指導を受けて強くなる。
それだけじゃなくて、魔水晶に封印されている悪魔の魂を吸収することで、さらに強くなれるかもしれない。
まあ、なによりも大事なのは悪用されないことなのだけど。
「よし、がんばろう」
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