27話 心当たりがものすごく
「どういう意味だ?」
「ギルドとしては、本当に聖女さんの犯行だなんて思っちゃいねえんだよ。聖女さんの人柄、功績は誰よりも知っているからな」
「そうなのか? なら、なんで拘束命令なんて出すんだよ?」
「訴えがあった以上、証拠もなしに、一方的な視点で却下するわけにはいかねえだろ? だから、誰かを聖女さんのところに派遣する。ちと窮屈な思いをさせてしまうが、監視などをして、なにもないことを証明する、っていうわけだ」
「なるほど……」
ウソはついていないように見える。
話の道筋をまとめてみても、おかしなところは見られない。
信用してもいいのかな?
「ちょっといいかしら?」
横で話を聞いていたアリスが質問をする。
「アンジュの傍で監視をするっていうことは、ギルドは、同じことが繰り返し起きると考えているの?」
「そうだな。その可能性は高いと睨んでいる」
「その根拠は?」
「わざわざ聖女さんの名前を騙るなんて、普通の詐欺や盗みじゃねえよ。なにかしら意図があって、と考えるのが普通だろ? 怨恨か他の理由か、それはまだわからねえが……また繰り返すだろう、ってのがギルドの見解だ」
なるほど。
言われてみれば納得の話だ。
というか……うーん。
男の話を聞いて、とある容疑者がぽんと頭に思い浮かんだ。
もしかしたら……?
「ってなわけで、聖女さんの監視……もとい、容疑を晴らすための人材として俺が派遣されてきたんだよ。あ、悪い悪い。名乗ってなかったな。俺は、ジン・ダーインスレイブ。この街をメインに活動している冒険者だ」
男……ジンが冒険者カードを差し出してきた。
今口にした通りの情報が書かれている。
冒険者カードの偽造は難しいと聞くから、ウソはついていないだろう。
「一応、拒否権もあるんだが……俺としては、余計な疑いをかけられないためにも俺を受け入れた方がいいと思うんだが……どうだい?」
「……わかりました。ジンさんを、オータム家の客人して迎え入れましょう」
「お嬢さま、よろしいのですか?」
「ここで拒否してしまうほうが問題になりますよ。容疑を晴らすためとはいえ、監視をされるというのは気分はよくないですけど……我慢します」
「心配しないでくれ。監視つっても、一日中はりついてるわけじゃねえさ。外に出る時は同行して……家の中では、夜にでもなにをしてたか教えてくれるくらいでいい」
「それだけでいいんですか?」
「言ったろ。ギルドとしては、聖女さんのことは疑ってねえんだ。しっかりと見張りました、っていうていがあればそれでいいのさ。だから、風呂とかについていくことはねえし、そこの兄ちゃんとエロいことをしても一向に構わねえぜ」
「なっ、ななな……!?」
デリカシー皆無の発言に、アンジュの顔が赤くなる。
「……もしもお嬢さまのお風呂を覗くようなことがあれば、その時は、あなたの首が物理的に飛ぶことになるので、ご注意を」
「お、おう……」
再びどこからともなく双剣を取り出して、ナインはジンを脅していた。
主のために普段以上のパワーが発揮されているのか、今度は防ぐことはできなかったみたいだ。
女の人って、怒らせると怖いよね。
「……不本意ですが、お嬢さまが了承した以上、私たちもジンさまをオータム家の客人として扱います。不本意ですが。ひとまず、客室に案内いたしますので、そちらに荷物を置いてきてください。不本意ですが」
「おいおい、何回不本意って言うんだよ。おっさん、傷つくぞ?」
「傷つけるために言っているのですから、それは歓喜すべきことですね」
ナイン、厳しいなあ……
まあ、先の発言を考えると、ジンのことはまったく擁護できないのだけど。
「じゃ、これからよろしくな」
ジンは軽く笑い、他のメイドさんに連れられて部屋の外に出た。
「ふぅ……」
突然のことに、ちょっと混乱してしまう。
軽く深呼吸をして、気持ちを落ち着けた。
「レティシアのこと、アンジュの偽者のことなんだけど……」
「ええ」
「俺の勘なんだけど……この二つの事件、繋がってないかな?」
「あっ、ハルもそう思った?」
「っていうことは、アリスも?」
俺とアリスは、同じ答えにたどり着いているらしい。
「あの……たぶん、私も同じ印象を受けています」
「同じく、私も」
アンジュとナインも異論はないらしい。
「うわーうわー、過激っす! 人間、やばいっす!」
サナだけは、マイペースに本を読み続けていた。
うん、放っておこう。
「この事件の犯人だけど……」
「「「レティシア?」」」
みんなの声がピタリと重なるのだった。
まず最初に思ったのは、武具屋の証言にあった犯人の台詞だ。
俺が幼馴染だからそう思うのかもしれないけど……
とてもレティシアっぽい。
わがままで、傲慢で。
それと、ちょっとバカっぽいところなんて、そっくりだ。
それと、事件が起きたタイミング。
レティシアが現れた直後で、アンジュの偽者が現れる。
偶然で片付けてしまうには、タイミングが良すぎる。
なにかしら関係があると考えても不思議ではないと思う。
「でも、なんでアンジュの偽者なんてことをしているのかしら?」
「そこが謎なんだよね……そんなことをしても、レティシアに得はないんだけど」
「ん? そんなこともわからないっすか?」
本を読んでいたサナが、ふと視線をこちらに向けてきた。
話はきちんと聞いていたらしい。
「え? サナはわかるのか?」
「わかるっすよ。自分、頼りになる弟子1号っすからねー」
弟子にした覚えはないんだけど……
このまま、強引に押し切られてしまうような気がした。
「サナの見解を教えてくれないか?」
「そりゃもう、簡単なことっすよ。ズバリ、あの勇者はアンジュに嫉妬したんっすよ」
「……嫉妬?」
「師匠がモテてるから、それが気に入らなかったんっすよ。だから、偽者を騙り悪いことをして、貶めようとしたんっすよ」
「それは……」
「……アリね」
ないだろう、と言いかけたところで、思わぬところから肯定が出る。
アリスだ。
ものすごく真面目な顔をして、サナのとんでもない話を受け止めて考えている。
「普通ならありえないと考えるかもしれないけど……レティシアの性格なら、ありえない話じゃないわ。っていうか、それ以外にないかも」
「そっすよねー」
「事件の核心を、ほぼほぼ一発で見抜いてしまうなんて……サナってば、実は賢いのかしら?」
「あれあれ? 褒められてるのかけなされてるのか、わからないっすよ」
アリスはサナの推理を推しているみたいだ。
アンジュとナインは……
「なるほど……言われてみれば、その通りかもしれませんね。少し見ただけですが……レティシアさんは、ハルさんにすごくこだわっているように見えましたから」
「お嬢さまを敵とみなして、排除するために今回の事件を起こした。辻褄は合いますね。他に動機を持つ人に心当たりはありませんし……わりと可能性はあるのではないかと」
みんな、サナの推理に賛成みたいだ。
あれ?
まさかと思っているのは俺だけなのか?
こうなると、みんなが正しく思えてきた。
女の子って、鋭いところがあると聞くし……
なんていうか、色々とすごいな。
「とりあえず、レティシアが怪しいという方向で動いてみようか。どうだろう?」
「「「異議なし」」」
みんなからの賛成を得られ、俺たちの今後の方針が決まるのだった。
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