267話 一見すると……?
「あっ、師匠!」
ふと、サナの声が。
振り返ると、犬を連想させるような感じでサナが駆け寄ってきた。
「もう、ダメっすよ」
「え、なにが?」
「師匠が迷子になるから、自分、失敗したじゃないっすか」
「……迷子になったのは、サナの方だからね?」
頭が痛い。
サナの場合、冗談とかじゃなくて本気で言っているからなあ。
「ほう、これは」
アレクの目が細く鋭くなる。
獲物を狙う鷹のようだ。
まさか、サナにまで力試しを……?
「だ、ダメですからね!?」
「ふぉっふぉっふぉ、そこまで慌てるでない。儂とて常識はある。やるならば、きちんと休息をとり、本調子でなければな」
それは常識じゃない。
この人、やっぱりバーサーカーだ……
まあ、今はサナと力試しをするつもりはなさそうだから、それは助かる。
「師匠、このじいちゃん、誰っすか?」
「えっと……近所のおじいさん」
サナのことだから、勇者ということを教えると……
「勇者!? なら、自分の敵っすね。覚悟ー!」
とか、突撃しかねない。
なので、適当にごまかしておいた。
……サナもアレクも猪突猛進すぎやしないだろうか?
俺の周り、なんでこういう人が集まるんだろう?
「さて、儂はそろそろ行くとしよう」
アレクは、一歩後ろに下がる。
「年寄りの道楽に付き合ってもらい、感謝するぞ」
「はあ」
無理矢理付き合わされた気がするのだけど……
でも、不思議と不快感はない。
怒りもない。
仕方ないな、という感覚はあるものの……
アレクの穏やかな顔を見ていると、不思議と許してしまう。
これは、彼の人柄が為せることなのかな?
勇者というものにあまり良い思い出がないため、ちょっと身構えていた。
でも、よくよく観察してみると、アレクは悪い人ではないと思う。
バーサーカーという困った問題はあるものの……
それを除けば、むしろ好々爺という感じで良い人に思えた。
アレクの雇い主であるホランさんも、良い人なのだろうか?
この前会った時は、特に問題はないように思えたけど……うーん。
すぐに結論を出してはいけないと思い、考えを保留にする。
「ではのう」
「あ、はい。また」
「うむ」
自然と「また」という言葉が出てきた。
それに対して、アレクは疑問を見せることなく頷いて、ゆっくりと公園を後にした。
俺も彼も。
再会することを期待しているのかな……?
「師匠、師匠」
「うん?」
「あのじいさん、誰っすか? 師匠の友達っすか?」
「友達ではないけど……うーん、どういう立ち位置なんだろうね」
今後、シルファのライバルになるかもしれない。
そのことを考えると敵なのだけど……
でも、単純に敵と考えたくないというか……
自分でも気持ちの整理をつけることができない。
「ところでサナ」
「はい?」
「その両手に抱えた、良い匂いがする荷物は?」
「あ、これっすか? 隠れ家的な屋台で見つけた、おいしい食べ物っす! いやー、この街に来てけっこう経つけど、まだまだ知らない店があるんすね。勉強になったっす」
「……つまり、良い匂いにつられて、ふらふらとどこかを歩いていたと?」
「ドヤ」
なんで、そこで自慢そうにするのかな?
「安心してください。ちゃんと師匠の分も買っておいたっす」
「……」
「あ、あれ? なんか、師匠の目が怖いっす……」
「サナは、しばらくお小遣いなしで」
「えええええぇ!!!?」
色々なことがあったのだけど……
とにかくも、ため息をこぼすしかできないのであった。
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