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265話 思わぬ戦い

「ちょっ!?」


 突然のことに動揺するものの、アレクは止まってくれない。


 一瞬でこちらとの間合いを詰めてしまう。

 しかし、本気ではないというか、まずは様子見なのだろう。

 拳を突き出してくるが、そこまで速くない。

 俺でも対処可能だ。


「くっ」


 ステップを踏むようにして、横に回避。


 危ない。

 リキシルとの稽古に体術も含まれていたから、なんとか避けることができた。

 それがなければ、あっさりと直撃していたと思う。


「ふむ。今の一撃を避けるか……ふふ、なかなかじゃな」

「なんでうれしそうなの!?」

「強敵と出会うと、儂はついつい笑ってしまうのじゃよ。そうやって、うれしくなるのが普通じゃろう?」

「絶対違う!」


 みんなに常識知らずと言われることが多いのだけど……


 うん。

 世の中には、もっと上がいた。

 この人、勇者と呼ばれているらしいが、その力を得た代償なのかと思うくらい常識が欠如している。


「さあ、もっと力を見せてくれ!」

「うわわっ」


 再びの突撃。

 今度は、さきほどよりも速い。


「このっ……シールド!」


 体術での対処は不可能と判断して、魔法の盾を展開した。


 アレクの突撃を受け止める。

 ただ、けっこうギリギリだったらしく、ビシリと魔法の盾にヒビが入る。


「うそだぁ……」


 たくさんの敵と戦い、ほとんどの攻撃を受け止めてきたのに……

 まさか、たったの一撃で破壊しかけてしまうなんて。


 この人、いったいどれだけの力を……?


 いや。

 本当に、拳の勇者というのなら、納得の力だ。


「やるのう。では、さらに一段回、力を引き上げていくぞ」

「まだ続けるの!?」

「ほれ」

「くっ」


 さきほどよりも速く、アレクが拳を連打する。


 再び魔法の盾を展開して……

 あるいは、ギリギリのところで回避して……

 なんとか凌ぐものの、それも時間の問題だ。


 アレクの攻撃は嵐のように苛烈で、防ぐことが難しい。

 このままだと、そう遠くないうちにアウトになってしまう。


「というか……」


 レティシアといいアレクといい、勇者っておかしな人が多いのかな?

 全員、人格破綻者なのかな?


「さあさあ、どうした!? お主の力はその程度か!? もっともっといくぞ!」

「くっ」


 なんで俺、こんなにも好き勝手されているのだろう?


 いきなり攻撃をされて。

 勝手に試すようなことをされて。


 ……うん。

 よくよく考えたら、ちょっと腹が立ってきた。


 こちらから攻撃をしても文句は言われないよね?

 その結果、痛い思いをしたとしても自業自得だよね?


 というわけで、反撃。


「フレイムウェイブ!」


 リキシルとの稽古で、ついでに覚えた火属性の初級魔法。

 熱波を叩きつけるというもので、与えるダメージは低い。

 ただ、かなりの広範囲に効果が及ぶだめ……


「むっ!?」


 避けることは難しい。

 熱波の直撃を受けたアレクは、顔をしかめ、足を止める。


「ファイア!」


 足を止めたところを狙い、魔法を叩き込む。


「ほっほっほ、甘いのう」

「どっちが?」


 アレクは驚異的な瞬発力を見せてファイアを回避してみせるものの、それは予想済み。

 勇者なのだから、それくらいはやってのけるだろう。


 だから俺は、すでに次の行動に移っていた。


「アイス!」

「どこを狙って……む?」


 同じく、リキシルとの稽古で身につけた水属性の初級魔法を唱えた。

 アレクの後方で炸裂するが、それが狙いだ。

 氷の壁ができて彼の退路を塞ぐ。


 その状態で、手の平をアレクに突きつけてやる。


「この状態だと、避けるのは難しいと思うんだけど……まだやる?」

「……いや、ここまでにしておこうかの」


 アレクは苦笑しつつ、両手を上げて降参のポーズをとるのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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