262話 リキシルの狙い
翌日。
最近の日課となりつつある稽古を終えて……
お風呂に入ってスッキリした後、リキシルの部屋に。
「あれ?」
部屋に入ると、リキシルだけじゃなくてシルファの姿があった。
ちょっと予想外。
「よう、わざわざ来てもらって悪いな」
「ううん、それは別に……」
不思議に思いつつ、促されるままリキシルの対面のソファー……シルファの隣に座る。
俺だけじゃなくて、シルファにも用事があるのかな?
「最初にハルの話をしておくが、稽古はかなり順調だな」
「本当に?」
「ああ。あたしの予想を遥かに超える成長っぷりだ。この分なら、三ヶ月くらいは短縮できそうだな」
それでも三ヶ月か。
俺が欲張りすぎるのかもしれないけど、もっと早く強くなりたい。
まあ、一朝一夕で強くなるなんて無理だ。
俺のわがままでしかないんだけど……
それでも、レティシアのことを考えると焦ってしまう。
「焦りは禁物だぞ」
俺の心を見抜いた様子で、リキシルが厳しい顔で言う。
「普通の稽古ならなんとかなるだろうが、今ハルがやってること……結界の習得は、人間の範囲を超えた力だからな。簡単に習得はできねえし、下手したら途中で大怪我をしてリタイアだ」
「それは……」
「でも、あたしの言う通りにやれば必ず習得できる。だから焦るな。お前は、もっともっと強くなれる」
「……うん」
リキシルの言葉が胸に染み渡るみたいだ。
絶対に強くなれる。
だから焦るな。
たったそれだけの言葉だけど……
今の俺には、なによりも必要な言葉に思えた。
うん。
完全に気持ちを切り替えることは難しいけど、できるだけ前向きにがんばることにしよう。
「で、次が本題なんだが……」
リキシルが難しい顔に。
無理難題をふっかけられるのだろうか? と緊張してしまう。
「嬢ちゃん……シルファの力を貸してくれないか?」
「それは、どういう?」
「あー……包み隠さずに言うと、あたしのパートナーとして武術大会に出場してほしい」
「えぇ!?」
「お?」
俺はおもいきり驚いて。
一方のシルファは、のんびりとした様子で小首を傾げた。
「悪いな、驚かせて。唐突な話になったのも、すまん」
「えっと……どういうことか、理由を聞かせてくれる? あ、武術大会の仕組みについては、多少は知っているよ。優勝した人が次の領主になるとか、代理人を指名してもいいとか」
「それなら話は早いな」
リキシルの話によると……
次の武術大会は二対ニのタッグ戦らしい。
リキシルは当然出場するのだけど……
いかんせんパートナーがいない。
候補は何人かいるものの……
いずれもリキシルが求めるレベルには達していないという。
「で、シルファに目をつけたわけだ」
「なるほど」
シルファはかなりレベルの高い拳士だ。
彼女をパートナーにすれば、とても心強いだろう。
「どうしてシルファなのかな? シルファよりも、ハルの方が強いよ?」
「武を競う大会なんだ。ハルの力はとんでもないけどな、魔法オンリーだと厳しいんだよ」
「んー……納得?」
そんなことを言いつつも、シルファはあまり納得していない様子だった。
身体能力でも俺の方が勝っているとでも言いたそう。
でも、さすがにそんなことはありえない。
シルファに限らず、みんな、俺の能力を上方評価しているような気がするんだけど……
そんなことはない。
買いかぶりすぎなんだよね。
「で、どうだ? やってくれないか?」
「ハル、どうする?」
「シルファが決めることだけど……うーん」
もう少し詳しい条件を聞いてみる。
その結果、シルファに害が及ぶ可能性は低いと判断した。
俺達の今後に影響を及ぼす可能性も低いと判断した。
そしてなによりも、リキシルが領主じゃなくなると困る。
稽古のこともそうだけど……
孤児院のことも気がかりだ。
なんでもかんでも助けられるなんて思っていないけど……
知ったものを見過ごすようなことはしたくない。
「シルファ、お願いできるかな?」
「おっけー。シルファにお任せ」
こうして、リキシルと共にシルファは武術大会に出場することになった。
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