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261話 ライバル

 倉庫に荷物を運んだ後、ホランさんは「またよろしく」と言い、孤児院を後にした。


 聞けば、普通は倉庫まで荷物を運ばず、建物の入り口に置いていくらしい。

 それでは大変だろうと、ホランさんは部下達と一緒に倉庫まで運んでくれた。

 良い人だ。


 それなのに……


「よし、調べるぞ」

「本当にやるの?」

「当たり前だろ、バカ」


 ホランさんが帰った後、俺とエリンは倉庫へ。


 注文通りの商品があるか?

 数に間違いはないか?

 粗悪品は紛れていないか?


 そういったことを確認するらしい。


「わざわざ、そんなことをしなくてもいいと思うんだけど」

「バーカ、相手がホランだからするんだよ」

「ホランさんでもミスはある、っていうこと?」

「それもあるが、ホランだからだよ」

「どういうこと?」


 エリンの態度を見るに、ホランさんに良い印象を抱いていないようだ。

 もしかして、実は悪い人なのだろうか?


「……ホランは、リキシルのライバルなんだよ」

「ライバル?」

「お前、この街の領主がどうやって決められてるか知ってるか?」

「えっと……確か、武術大会に優勝した人が領主になれるんだよね」


 どこかでそんな話を聞いた。


「え、待って。リキシルのライバルっていうことは、もしかしてホランさんは……」

「そういうこった。次の大会で、ホランも出場するんだよ」

「そうだったんだ……」


 失礼な感想だけど、あまり戦いは得意じゃなさそうに見えた。

 俺の目が曇っているだけで、実はすごい人なのかな?


 そんなことを考えていると、エリンが補足してくれる。


「大会は代理人の出場が認められてるんだよ。本人が戦ってもいいし、代理人が戦ってもいい」

「え、そんなことアリなの?」

「アリなんだよ。強い代理人を見つけるってのも、一つの能力だ。優れてるヤツじゃなきゃ、強いヤツを雇うことはできねえ。っていう理由で、いくつか前の大会から認められるようになったんだよ」

「ホランさんは、代理人を使ってくる、と?」

「まず間違いなく、そうだろうな。ま、リキシルはそんな姑息な真似はしねーで、自分で戦うだろうけどな」


 エリンは、どことなくうれしそうに言う。


 ああ、そうか。

 鈍いと言われることのある俺だけど……

 今、エリンがなにを考えているのか、それは簡単に察することができた。


「エリンは、リキシルが大好きなんだね」

「ごほっ」


 エリンが盛大にむせた。


「て、てめえ、いきなりなにを……ごほっ、げほっ」

「だって、エリンがホランさんを嫌いなのは、リキシルのライバルだからだよね? だから、なんだかんだ文句をつけて機嫌が悪い」

「そ、それは……」

「それってつまり、リキシルさんのことを心配している、ってことでしょ?」

「んなことは……!」

「こんなに心配されて、そして、たくさん想われているなんて、リキシルは幸せ者だね」

「うだあああああ!!!」


 我慢ならん、という感じでエリンが吠えた。


 顔を耳まで赤くしつつ、ツカツカとこちらに歩み寄る。

 そして、グイッと胸ぐらを掴んできた。


「てめえ、さっきから適当なことを言いやがって!」

「事実だよね?」

「うるせえ! んなことはねえよ、ねえったらねえんだよ!!」

「恥ずかしがらなくていいよ。大事な人のライバルがいたら、良い人でも警戒するのは当然だからね」

「てーめーえーはあああああ!?」


 エリンは叫び、頭をガシガシとかいて……

 そして、大きなため息をこぼして、その場にしゃがみこんでしまう。


「どうしたの? 気分でも悪い?」

「ある意味でわりーよ……」


 ちっ、とエリンが舌打ち。

 こちらを睨みつけてくる。


 ただ、その瞳はあまり鋭くない。

 どことなく疲れたような感じで……

 あと、珍獣を見るような感じだ。


 あれ?

 ということは、俺は珍獣?


「てめーは、いったいなんなんだ?」

「なに、その抽象的な質問は」

「てめーみたいなおかしなヤツ、初めて見た」

「そうかな? 俺みたいなのは、わりとたくさんいると思うけど」

「たくさんいてたまるか」

「そう?」


 魔王のことはともかく……

 それ以外の点……性格的なものを見るのなら、俺のような人はたくさんいると思う。


 でも、エリンは納得できない様子でぼやいていた。





特別話 その1


「天知る地知る、人が知る……そう、この私、レティシアよ!」


 大げさなポーズを取り、レティシアが強く叫ぶ。


「えっと……レティシア、なにをしているの?」

「突然、変なことを叫んで……うーん、そういう年頃なのかしら?」

「ちょっと、ハルもアリスも変なこと言わないでくれる? 私がバカみたいじゃない」


 そういう風にしか見えない行動を取るレティシアに問題があると思うんだけど。


「今日は、私達の作品『追放の賢者、世界を知る~幼馴染勇者の圧力から逃げて自由になった俺~』のコミカライズ1巻の発売日なのよ! だから、わざわざこうして、私が宣伝に協力してあげているんじゃない」

「それはありがたいと思うけど……」

「いつも以上に、上から目線ね……」


 俺とアリスは、やれやれとため息をこぼす。


 相変わらず困った幼馴染だ。

 でもまあ、そこがレティシアらしいといえばらしいのかもしれない。


「この漫画は、勇者である私と、下僕のハルとアリスによる魔王討伐の旅よ。笑いあり涙あり、圧倒的なスケール感で送る……」

「ちょっと待って」

「しれっとウソつかないの」


 とんでもない捏造を始めるレティシアに、俺とアリスは即ツッコミを入れた。


 すると、レティシアは、なにが悪い? というような感じで不思議そうな顔に。


「なによ?」

「ぜんぜん内容が違うじゃないか」

「きちんと、正しい情報を教えないと」

「甘いわねー」


 まともな指摘をしたつもりなのだけど、レティシアはちっちっちと指を振る。


 ちょっとイラッと来る顔だ。


「宣伝のためには、なにをしても構わないのよ!」

「「いやいやいや」」

「だから、ちょっとだけ脚色したの。いい感じでしょ?」

「「ダメだから」」


 やっぱり、レティシアはレティシアだ。

 常識がないというか……

 倫理観に欠けている。


「サナ」

「はいっす!」


 パチンと指を鳴らすと、どこからともなくサナが現れた。


「師匠、呼びましたか?」

「今、漫画の宣伝をしているんだけど、ちょっとレティシアが邪魔なんだ」

「あっ、こら、ハル! 邪魔とはなによ、邪魔とは。あんた、いつからそんなことが言えるようになったわけ? 生意気なんですけど」

「っていうわけで……」

「なるほどー、確かに邪魔っすね」


 サナにまで邪魔と言われてしまう。

 レティシアは、とても残念だ。


 ザンネンシアと命名しよう。

 心の中でそう決めた。


「ほらほら、師匠の邪魔しちゃいけないっすよー。いくっすよー」

「ちょっと! 私をどこに連れていくつもりよ!?」

「師匠の邪魔にならないところっすよー」

「だから、それはどこなのよ!?」

「とにかく、いくっすよー」

「だから、はなし……ちょ、こらあああああ!?」


 レティシアは勇者だけど、ドラゴンであるサナに力で勝てるわけがない。

 ズルズルと引きずられていく。


「ちょ……ハル、私を助けなさいよ! これは命令よ!」

「がんばってねー」

「なにを!?」

「さあ?」

「こら、ハル! ハルってば! ハルぅううううう!?」


 レティシア、退場。


 やれやれとため息をこぼす。


「レティシアって、いつも元気ね」

「ある意味、それが取り柄なのかもね」

「まあ、それはともかく。本来の目的を果たしましょうか」


 にっこりと笑うアリス。

 俺も笑う。


「というわけで……」

「『追放の賢者、世界を知る~幼馴染勇者の圧力から逃げて自由になった俺~』コミカライズ1巻」

「10月7日、発売よ!」

「「よろしくお願いします!!」」


割り込み投稿がうまくできなかったので、最後に宣伝話をくっつける形にしました><

ただの宣伝なので、気楽に読んでいただければ。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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