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26話 偽者

「拘束……命令?」


 おおよそ、通常ではありえない言葉を聞いて、俺は混乱した。


 冒険者ギルドは街のなんでも屋という面だけではなくて、治安を維持する役割も担当している。


 本当に治安を維持しているのは、領主の抱える騎士団なのだけど……

 騎士団だけでは、どうしても手の届かないところが存在する。

 大きな犯罪はともかく、小さな事件は毎日数え切れないほど起きているものだ。


 それら一つ一つに対処する余裕は、騎士団にはない。

 ただ、倍以上の数の冒険者を抱えるギルドならば、対処は可能だ。


 なので、冒険者ギルドは、街の治安を維持する役目も果たしている。

 その権力、権限はわりと大きい。

 時と場合によっては、騎士団に代わり、犯罪者の指名手配や拘束命令を出すことがある。


 今回もそのパターンなのだろう。

 しかし、なぜアンジュが?

 彼女は、拘束されるようなことは何一つ、していないはずなのだけど……


「バカな!? お嬢さまに対する拘束命令など……なにを根拠に、ギルドはそのような判断を下したのですか!?」

「それが、その……」


 チラチラとこちらを見る。

 俺たちの前では話しづらいのかもしれない。


「構いません、話しなさい。むしろ、ハルさまたちにも聞いていただいた方がいいかもしれません」

「は、はい、わかりました……その、冒険者ギルドの話によると……」


 とあるパーティーが、とある武具屋を訪れた。

 そのパーティーは、店主が喜ぶほどの量を購入した。

 そして会計の際に、


「私はアーランドの領主の娘であり、聖女のアンジュよ! 私が買いに来るような店、と宣伝してもいいわよ。あ、そうそう。代金は家にツケておいて、じゃあね」


 ……なんてことを言い、金を払わずに店を後にしたのだとか。

 店主は最近アーランドに移住したらしく、アンジュのことをよく知らないらしい。

 ただ、聖女ならば……と納得して、その場は客の言う通りに。


 そして今日。

 代金を請求したのだけど、そんなものは知らないとの話。

 騙されたと思い、冒険者ギルドに被害届を提出。

 聖女が詐欺を行ったとなれば、わりと大きな問題に発展してしまう。

 即座に調査が行われることになり……今に至るという。


「確かに、そのような請求があったことは聞いていますが、ありえません。ここ数日、お嬢さまは買い物なんてしていませんし、こちらのハルさまアリスさまと一緒に旅をしておられました」

「は、はい。自分もそのように言ったのですが、複数の苦情が寄せられていたせいか、冒険者ギルドは聞き入れてくれず……そして、拘束命令を出してしまうほどに。ギルドからも人が派遣されていて、すぐそこに……」

「邪魔するぜ」


 無遠慮に部屋に立ち入ってきたのは、30過ぎくらいの大柄な冒険者だ。

 顎に生えた無精髭を指先でいじりながら、ニヤリと笑う。


「どちらさまでしょうか? あなたのような方をオータム家に招いた覚えはありませんが」

「キツイメイドさんだねえ。もうちょっと笑った方がいいぜ?」

「……不審者とみなし、排除させていただきます!」


 どこからともなく、ナインは双剣を手にした。

 いつなにが起きてもいいように、隠し持っているのだろう。


 風のような速さで駆けて、男に向けて双剣を振るう。

 一応、手加減はしているらしく、刃の腹を叩きつけるような軌道だ。


 しかし、


「おっと、危ねえなあ」

「なっ!?」


 男は、両手、二本の指で双剣を挟み、受け止めてみせた。

 なんていう動体視力と反射神経。

 それに、力もとんでもない。


 曲芸師のような真似を、涼しい顔をしてこなしてしまうなんて……

 この男、かなりの実力者だ。


「まあ、落ち着いてくれよ。俺はケンカを売りに来たわけじゃねえんだ」

「なにをふざけたことを……! 冒険者ギルドは、お嬢さまの拘束命令を出したと聞きました! そこから派遣されてきたのならば、あなたはお嬢さまの敵なのでしょう!」

「いや、だから……」

「お嬢さまには、指一本触れさせません!」


 ナインは双剣を手放すと、武装を徒手空拳に切り替えた。

 流れるような動きで、拳撃と蹴撃を交互に繰り出していく。

 独楽が回転しているかのようで、非常に滑らか、かつ力強い攻撃だ。


 だが、それでも男には通用しない。

 片手で受け止められて、あるいは、ミリ単位で避けられてしまう。


「ちっ、いい加減に……人の話を聞けや!」

「っ!?」


 男は焦れた様子で反撃を繰り出そうとした。

 攻撃と攻撃のわずかな隙を的確についた、鋭い一撃だ。


 あれはまずい!


「シールドッ!」

「なっ!?」


 俺が展開した魔法の盾に、男の攻撃が阻まれる。


「いっ……てぇえええええ!?」


 男が拳をおさえて悶えた。

 鉄の壁を殴りつけるようなものなので、その反応も納得だ。


「つぅううう……なんだ、これ? 魔法か……? 兄ちゃんがやったのか?」

「ああ、そうだ」

「すげえな……あんな瞬時に魔法を展開するだけじゃなくて、俺とメイドさんの間を狙い、これだけ精密に……しかも、強度は抜群ときた。兄ちゃん、只者じゃねえな?」

「えっと……か、かもしれない?」


 みんなにあこれこれ言われ続けたため、俺がちょっとおかしいのは理解した。

 ただ、自分で只者じゃないと認めるなんて恥ずかしく……

 ちょっとどもってしまうのだった。


「いいねえ……兄ちゃんみたいな強者がいるなんて、世界は広いな。いっちょ、手合わせしてくれねえか?」

「え? 俺は別に、アンジュやナインに手を出さないなら、無理に戦う必要はないんだけど……」

「なら、聖女さんやメイドさんたちを無理矢理拘束する、と言えば?」

「……その時は全力で倒す」

「っ!?」


 固い決意を胸に、強く言い放つ。

 すると、男がビクリと震えた。


「な、なんだ、この圧は……!? この俺が震えているだと……!? くっ……」

「今の言葉、本気か? 答えろ!」

「……わ、わかった。俺の負けだ。そんなことはしない、誓うぜ」

「ならいい」


 睨みつけるのをやめると、男は汗を拭うような仕草をしつつ、吐息をこぼす。


「ふぅううう……ビビったぜ。まさか、この俺が戦う前に、こいつには勝てねえ、って思うようなヤツがいるなんてな……ったく、ホント世界は広いな。イヤになるぜ」

「それ、過大評価のような気がするんだけど……」


 だって、俺はまだなにもしていない。


「兄ちゃんは、自分を過小評価してるみたいだな。その勘違いを正すために言っておいてやるが、兄ちゃんみたいなのを化け物、っていうのさ」

「……」

「おっと、悪気はないぜ。それくらいすごいやつ、って言いたかっただけだ。まあ、俺の言葉も悪かったな。すまん」


 素直に謝られてしまうと、それ以上、文句を言うつもりにはなれない。

 意外と良い人……?


「で……本題に戻りたいんだけど、いいか?」

「アンジュを拘束するつもりか? なら俺は……」

「あー、待て待て。まずは俺の話を聞いてくれ」

「……聞こう」

「拘束つっても、逮捕するとか尋問するとか、そういうわけじゃねえんだ。なんていうかな……容疑を晴らすために監視させてもらう、っていう感じだな」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 領主の屋敷に領主の了解も無く冒険者が入るとかあり得んだろ。しかも例え名目としても領主の娘・貴族を拘束する権限を冒険者ギルドが持ってるって?アホくさ。 [一言] 作者は馬鹿。
[気になる点] 刃の腹で叩こうとしてるのを挟んで止めたら刃の部分挟むことになって指切れるのでは?
[気になる点] 第26話 サブタイトル【偽物】⇒【偽者】ですよね。モノでは無く人が偽だから。
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