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257話 その頃のレティシア

「ハルのヤツ、なにをしているのかしら……?」


 ちょっとした伝手があり、私はいつもハルの様子を確認している。

 監視しているというわけではなくて、第三者からの報告を受けているような感じだ。


 その報告によると、今度は武術都市を目指しているという。


「なんで武術都市……?」


 変なことは考えない、なにもしない。

 魔王にならない。


 そう言ったのだけど……

 ハルは、その約束を守るつもりがない?


 武術都市といえば闘技場だ。

 己の腕に自信を持つ者が集まり、力で一攫千金を狙う。

 年に一度、開催される大会に優勝したら、名誉と財産が手に入る。


 そういえば、そろそろ大会が開催される時期だ。

 ハルは、大会の出場を考えているのかしら?


「それくらいならいいけど……もしも、他に妙なことを考えているようなら……くぅ」


 手足を切り落としてでも、おとなしくさせてやる。


 そんな物騒な考えが自然と思い浮かび、私は慌てて頭を横に振る。


「ダメ、そんなことをしたらダメ……ハルは、私の……大事な幼馴染……」


 私は勇者。

 人間の中では、最強と呼ばれている力を持つ。


 でも、悪魔に対しては無力だ。


 討伐するつもりが、逆に取り憑かれて……

 その力をコントロールしようとしても、無理。

 時間が経つにつれて悪魔の侵食が進み、理性が緩み、自我が曖昧になってしまう。


 二体目の悪魔……フラウロスを取り込んだことで、さらに症状は悪化した。


 理性が蒸発して、欲望が肥大して……

 今、ハルに対してひどいことを考えたように、願いが曲解されて、とんでもない行動に出てしまいそうになる。


「それでも……!」


 最初は暴走してしまい、ずっとずっとハルにひどいことをしてきた。

 そのことを思うと、悔やんでも悔やみきれない。


 その後悔が私の力となる。


 もう二度と、あんな愚かな真似はしない。

 残りの人生、全てをハルのために捧げる。

 ハルの中にいる魔王を消滅させて……

 そして、普通の幸せを掴んでもらうのだ。


 その覚悟が私に強い意思を与えてくれる。


「それで、これからどうするんだい?」


 私のものではない、幼い男の子の声が響いた。


 振り返ることはしない。

 たぶん、ニヤニヤと笑っていて、苛立つだけだから。


「私達も、武術都市に行くわよ」

「おや、彼を追いかけるのかい?」

「なにか起きた時のために、近くにいたいっていうのはあるけど……それは別。目的としては、三番目くらいね」


 本当は、ハルのことを一番に考えたいのだけど……

 そうなると詰んでしまう可能性がある。


「一番目と二番目の目的は?」

「二番目は、ハルの力を利用しようとする者を排除することよ」


 ハルの力はすさまじい。

 それを知り、利用しようと考える人は多いはず。


 そんなことをさせてたまるものか。

 普通の魔法なら、対して問題はないけど……

 それ以上の力を使うと、ハルの中の魔王を刺激してしまうことになる。

 魔王化が進んでしまう。


 それを避けるために……

 邪魔となる者は全て排除する。


「なら、一番の目的は?」

「それは……」


 武術都市がある方を睨む。


「武術都市にいる勇者の排除よ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
【氷の妖精と呼ばれて恐れられている女騎士が、俺にだけタメ口を使う件について】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 「ハルのヤツ、なにをしているのかしら……?」 読『ああ、ハルなら女の子に踏んでもらってますよ。』
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