255話 結界
「結界……?」
それは、もしかしてもしかしなくても、魔人が使っているアレ?
通常の攻撃を全て防いでしまうという、ちょっと反則なアレ?
でも、結界は防御専用のはずでは?
エクスプロージョンを殴り飛ばすなんて、そんなことは……
いや、待てよ?
相手の攻撃を防いでいるというところを見ると、防御を言えなくもないのか。
それなら問題は……
ダメだ。
ちょっと頭が混乱してきた。
「結局、どういうこと……?」
「はは、混乱してるみたいだな。ま、気持ちはわかるぜ。あたしも結界の詳細を知った時、同じく混乱したさ」
「だよね、混乱するよね」
「ま、安心しろ。あたしが、きちんとレクチャーしてやるからな」
「うん、お願い」
力試しは、ひとまず中断。
リキシルによる結界講義が始まる。
彼女によると……
結界は、物理、魔法、全ての攻撃を無効化してしまう。
俺達が使う空間を斬る、というような攻撃に対しては、さすがにどうしようもないらしいが……
しかし、それ以外の攻撃なら絶対的な耐性を持つ。
付け足すのならば、今リキシルが見せたように、攻撃にも転用可能だ。
結界は全てを防ぐ無敵の壁。
それを展開した状態で突撃すれば、どうなるか?
相手からしたら、強固な盾を構えて突撃されるに等しい。
ひとたまりもない。
結界を習得して、扱いになれれば攻撃も可能に。
今まで相対した魔人は、そんなことをしていないのだけど……
それは俺達を下に見ていたからだろう。
俺達にそこまでする必要はないと、増長していたのだろう……というのがリキシルの推測だ。
「結界か……なるほど、すごく便利だね」
「でもって、とんでもなく強いっていうわけだ」
結界は、魔人専用の技ではないらしい。
今、リキシルが使ってみせたように、その気になれば人間も習得可能だとか。
結界の正体は、高密度の魔力だ。
多量の魔力を自分に流すことで、体を保護する膜を作り上げる。
魔力の鎧を身につけるようなものだ。
言葉にすると簡単そうに聞こえるけど、実際は、不可能と思えるほどに難しい作業らしい。
常に魔力を身にまとい、一定の出力を保つ。
ただ魔力が強ければいいというわけではなくて、全体のバランスも重要。
パワーとコントロールの二つが求められて……
さらに強靭な精神力が必要とされて……
さらにさらに、並外れた才能と努力も要求されてしまう。
「ってのが、結界の習得条件だな」
「……話だけ聞くと、とんでもなく難しく聞こえるね」
「まあな。あたしは天才っていう自負があるが、それでも習得に十年以上かかったぜ」
「うわぁ……」
そうなると、俺は三十年くらい……?
いや、五十年……もしかしたら、一生をかけても終わらないかも。
「魔人も、だいたいそれくらいで習得してるみたいだぜ。連中、寿命ってもんがねえからな。のんびりと結界の習得に専念できる、っていうわけだ」
「俺は……ちゃんと、寿命はあると思うんだけど」
魔王の魂が宿っているらしいけど……
でも、普通に歳はとる。
「うまくいったとしても、十年……いや、下手をしたら一生かけても習得できない……?」
「後ろ向きだなあ。心配すんな、ハルなら問題ねえよ」
「と、いうと?」
「バカみたいな魔力を持っていて、オリジナルの魔法を開発するほどに器用。本当の天才ってのは、お前みたいなことを言うのさ」
「そんなことは……」
「謙遜すんな。ハルなら、そうだな……うまくやれば、一年で習得できるんじゃねえか?」
「一年か……」
十分の一以下。
遥かに短いけど、でも、レティシアが一年保つかどうか。
彼女はとても我が強いから、まだなんとかなると思うけど……
一年となると微妙だよな。
それなら、もっと確実な方法を……
「言っとくが、なんでもかんでもうまくいくような都合の良い方法はねえぞ?」
「……っ……」
「これが、あたしが提示できる最大のものだ。これ以上は無理だな。これで納得、満足できないっていうのなら、他を当たってくれ」
そう……だよな。
リキシルは、しっかりと俺の力になろうとしてくれていて……
今できることを提示してくれている。
結界の習得に一年。
レティシアのことが心配だけど……
でも、それなら俺がもっと努力をすればいい。
たくさん練習をして、勉強をして、稽古をして……
リキシルの予想を裏切り、一年よりも早く習得してしまえばいいのだ。
結局のところ、俺のやる気、努力次第だと思う。
そこを見誤ることなく、前に進んでいかないと。
「……うん、ありがとう。色々と教えてくれて」
「どうする?」
「このまま教えてほしい」
習得に一年かかる?
レティシアが保つかわからない?
なら、半年で習得できるようにがんばればいい。
一ヶ月でコツを掴むように、努力を重ねればいい。
間に合わないと焦り、嘆くだけなんて意味のないことはやめにしよう。
今できることをやるだけだ。
「俺、がんばるよ」
「……くはっ」
リキシルが、とても楽しそうに笑う。
「いいねえ……うん、マジでいいな。そういうひたすらに前向きなところ、嫌いじゃないぜ」
「ありがとう?」
「なあ、この後、時間はねえか? なんだったら、あたしと二人で話を……」
「「ダメ!!」」
観客席にいるアリスとクラウディアが敏感に反応して、そんな声を飛ばしてくるのだった。
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




