253話 まずは力試し
リキシルの盛大な歓待を受けて……
そのおかげで、その日はぐっすりと眠ることができた。
そして翌日。
俺達は、リキシルが自費で用意したという訓練場に移動した。
「「「うわぁ……」」」
やや大きめの部屋に、周囲に被害を及ぼさないための結界。
訓練場と言うから、そんなものを想像していたのだけど……
ぜんぜん違う。
やや大きめなんてものじゃなくて、かなり大きい。
たぶん、数百人を収容することができて、それでいてまだ余裕があるだろう。
闘技場を模したと思われる舞台。
観客席に控室。
食堂なども完備されているみたいで、なんでもありだ。
「これ、本当に訓練場……?」
「レジャー施設っていう方が適当よね」
「はは、よく言われるよ」
俺とアリスの素直な感想に気を悪くした様子はなく、リキシルが楽しそうに笑う。
本当に言われ慣れているのだろう。
「ここは避難所も兼ねててな」
「避難所?」
「稀にだが、武術都市はとんでもない災害が起きることがあってな。数十年に一度で、あたしの代になってからは起きたことはねえが……それでも、備えは必要だからな。こんなものを作った、っていうわけだ」
「なるほど」
だからこんなに広く、色々な設備があるのか。
納得だ。
リキシルの口調から推察すると、以前の領主の時代まではこんなものはなかったのだろう。
でも、リキシルはいざという時を考えて、避難所兼訓練場を建設した。
これだけのものだ。
きっと、たくさんの反対があっただろうけど……
それらを乗り越えることができて、今に至る。
見た目からは想像できないけど、リキシルはすごく優秀な領主なんだろうな。
って、失礼か。
「普段は街の連中も使ってるが、今日はあたしらの貸し切りだ」
「いいの?」
「客人をもてなすためだからな、文句は言わせねえさ」
ニカッと笑いつつ、リキシルは舞台に上がる。
そして、手招きした。
「まずは力試しといこうぜ」
「いきなり?」
「鍛えるにしても、ハルがどれくらいの力を持ってるか、知らねえといけないからな。そのためには、一度、やりあうのが最適なんだよ」
「武闘派だね……」
でも、嫌いじゃない。
俺も、あれこれと討論したり頭を使うよりも、体を動かした方がスッキリする。
まあ、頭を使うのが嫌なわけじゃないんだけどね。
「よし」
がんばろう。
テストというわけじゃないけど……
なんとなく、リキシルから認められたいと思った。
彼女のまっすぐな人柄に触れた影響かもしれない。
舞台に登り、リキシルと対峙する。
「ハルは賢者なんだよな?」
「うん、一応」
「なんで一応なんだよ?」
「あまり実感なくて……」
だいぶ前に判明したことだけど、でも、まだ実感はない。
遥かに強い魔人なんかと遭遇したせいで、賢者と言われてもそんなすごいものじゃないよね? と思うようになってしまったせいだろう。
「魔法はどんだけ使えるんだ?」
「えっと……初級魔法がいくつか。中級魔法と上級魔法が一つずつ。あと、オリジナル魔法が二つほど」
「それだけかよ、おい」
「なかなか覚えるヒマがなくて……」
「ってか、オリジナルってなんだよ。すげーじゃねえか」
「あ、ありがとう」
まっすぐな瞳で褒められると、ちょっと照れる。
「接近戦はどうなんだ?」
「微妙……かな」
シルファやサナに教わることもあるのだけど……
それほどレベルアップしたという実感はない。
たぶん、向いていないのだろう。
「ふむ」
一通りの話を聞いたところで、リキシルは考えるような仕草を取る。
そのまま沈黙を保ち、考えること数分。
「よし。じゃあ、やってみるか」
「本当に戦うの?」
「おう。その方がわかりやすいからな」
「あのー……」
観客席で見守るアリスが、そっと手を挙げる。
「ハルに全力を出させないでね?」
「あん? なんでだよ?」
「とんでもないことになるからよ。特に魔法はダメ」
「心配する必要はねーぞ? ここは結界が展開されてるから、ちょっとやそっとのことじゃ壊れねえし」
「ちょっとどころじゃ済まないから、こうして注意しているの」
「ふむ」
アリスの忠告に、リキシルは改めて考える。
そして、出した結論は……
「よし、ハル。お前、上級魔法を使えるって言ったな?」
「あ、うん。火のエクスプロージョンを」
「それ、全力で撃て」
「「ちょっと!?」」
アリスとクラウディアが慌てた。
アンジュはのんびりしていた。
ナインは冷静だった。
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