252話 強くなりたい
「ハルは、強くなりたくてここに来たんだよな?」
親睦を深めるように、なんてことのない話をして……
しばらくして、リキシルがそう切り込んできた。
酔っているせいか、少し頬が赤い。
ただ、その目は真剣そのものだ。
飲んでも飲まれてはいないらしい。
「うん。リリィとシノに、ここなら今まで以上に強くなることができる、って紹介されて」
「なるほどね。ったく……あの二人、あたしを便利屋と勘違いしてねえか?」
「えっと……ごめん、迷惑だったかな?」
「あー、わりい。今のは、あの二人に対する愚痴だ。ハル達を厄介者とか、そういう風には思ってねえよ」
「ならよかった」
リリィとシノは、色々な意味で問題児なので、愚痴をこぼしたくなる気持ちはよくわかる。
……なんて、二人の前じゃ言えないけどね。
「最近はそれほど忙しくねえし、弟子もとってねえからな。あたしとしては、特に問題はねえよ」
「それじゃあ……」
「ただ、どうして強くなりたいんだ? 今でも十分にハルは強いだろ」
「そんなこと、見ただけでわかるの?」
「武術都市の領主は、頭だけじゃなくて腕っぷしも良くないと務まらねえからな」
リキシルは、ニカッと笑う。
自慢しているみたいで、どことなく子供のようだ。
こういうところが彼女の魅力なんだろうな。
変に謙遜はしないで、己が持つものを素直に見せて、それを誇りとする。
エリンのような我の強い子には、よく慕われそうな性格だ。
「あまり自覚はしていなかったんだけど……うん、それなりの力はあると思う」
「それなり、っていうレベルか? あたしから見たら、とんでもない化け物だぞ」
「あはは、ありがと」
一応、褒めてくれているんだよね?
「でも……それなりじゃあダメなんだ。足りないんだ」
魔人はもっと強い。
魔王になるためには、もっともっと力がないとダメ。
僕は、今以上に強くならないといけない。
もうこれ以上、この手からこぼれ落ちるものをなくすために。
そして、こぼれ落ちたものを再び拾うために。
「訳ありか?」
「うん」
「そっか」
リキシルは一つ頷いて、
「よし、わかった。あたしがハルを強くしてやるよ」
あっさりと、そう言った。
「えっと……俺が言うのもなんだけど、いいの? なんか迷っていたみたいだから、答えを先延ばしにされるか、あるいは、もっと色々と尋ねられると思っていたんだけど」
「ま、気にはなるけどな。ハルの事情とか、リリィとシノの関係とか」
だよねー。
リキシルが、魔人のことについてどれだけ知っているかわからないけど……
少なくとも、リリィとシノが普通の人間じゃないことは気づいているはずだ。
そこまで鈍くない。
そんな二人と知り合いというだけじゃなくて、紹介状を書いてもらうほどの仲。
普通に考えて気になるだろう。
「ただ、ハルは男の顔をしていたからな」
「男の……?」
「覚悟を決めた、強くまっすぐな心を持っている、ってことさ」
そう、なのかな……?
自覚はないので、思わず自分の頬を触ってしまう。
うん、よくわからない。
そんな俺の仕草を見て、リキシルが小さく笑う。
「あと、そういうのんびりとしてて、とぼけたところはあたしの好みだな」
「え?」
「そんな感じで、まとめると……女の勘、ってやつだな」
なるほど、と納得した。
女性の勘というものは、なかなかバカにできないものだ。
女性は探知能力に長けているというか、人の本質を直感的に見抜くことが多い。
だから、勘と言われてもバカにするものじゃない。
それに、ウチのパーティーは俺以外女性だから……
なおさら、女性の勘というものの力強さを知っている。
「バカにしねえのか?」
「え? なにが?」
「女の勘なんて、ってさ」
「そんなことをしたら、俺、みんなから怒られちゃうよ」
「……」
リキシルはキョトンとして……
次いで、大爆笑した。
「あはははっ、そんな理由で……あはっ、ホント、おもしろいヤツだな」
「えっと……?」
「ってか、尻に敷かれてるのか? おいおい、男がそれでいいのかよ」
「いいんじゃないかな」
みんなには色々なことをしてもらっていて……
特に、おいしいごはんを毎日作ってもらっている。
いつも感謝しているので、頭が上がらない。
そう告げると、
「あはっ、あははは! 飯のためなら尻に敷かれることも気にしないって、どんな男だよ、お前は。そんなヤツ、見たことねえぞ、くっ、くくく! あはははっ!」
再び大爆笑されてしまった。
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